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この不幸な女性が話し終えた後、私達はしばらくの間何も言わず座っていた。それから、ホームズは長い腕を伸ばして彼女の手をそっと叩いた。彼がそんな思いやりを見せたのは私にはほとんど覚えがない。
「お気の毒です!」彼は言った。「お気の毒です!運命のめぐり合わせは本当に理解しがたいものがあります。来世になんらかの埋め合わせがなければ、この世界は残酷な戯れです。しかしそのレオナルドという男はどうなったのですか?」
「彼をもう一度見たことも聞いた事もまったくありません。多分私があんなに激しく彼を恨みに思ったのは間違いだったのでしょう。彼はライオンの食べ残しより、むしろ国中を連いてくる熱心なファンの一人を愛したかもしれません。しかし女性の愛はそう簡単には色褪せません。彼は私を野獣の爪の下において逃げました。彼は助けを必要としている時に私を見捨てました。それなのに、私は彼を絞首刑に送る事ができませんでした。私自身は、この身がどうなろうとも構いませんでした。私のこの人生以上に恐ろしいものがありえるでしょうか?しかし私は彼を死刑にならないようにしてきました」
「それで彼は死んだのですか?」
「彼はマーゲートの近くで水泳していて先週溺死しました。新聞で彼が死んだという記事を読みました」
「彼はその五本爪の棍棒をどうしたんでしょうか。それはあなたの話全体の中で最も奇妙で巧妙な部分ですが?」
「私は知りません、ホームズさん。野営地の側に白亜坑があり、その下には深い緑の水が溜まっています。多分その水の底に・・・」
「まあ、今ではほとんど問題ではありませんね。全て終わったんですから」
「そう」女性が言った。「これで全て終わったのよ」
私達は立ち上がって行こうとしていた。しかし女性の声の何かが、ホームズの注意を引いた。彼はさっと彼女の方を振り向いた。
「あなたの命はあなただけのものではありません」彼は言った。「早まってはいけませんよ」
「何か、誰かの役に立つんでしょうか?」
「どうして分かります?苦しみをこらえているという実例は、それ自体が、こらえ性のない世界に対してどんな教訓よりも、もっと貴重なものです」
女性の返答は恐ろしいものだった。彼女はベールを上げて明るいところまで歩み出た。
「あなたがこれに耐えられるのかしら」彼女は言った。
それは恐ろしかった。顔そのものが無くなっている場合はどんな言葉も顔の様子を表現する事はできない。恐ろしい廃墟から覗く、悲しげな二つの生き生きした美しい茶色の目は、その光景をただ恐ろしくするばかりだった。ホームズは哀しみと遺憾の念を表すように手を上げて、私達は一緒に部屋を後にした。
二日後、私がホームズを訪問した時、ホームズはちょっと自慢そうにマントルピースの上の小さな青い瓶を指差した。私はそれを取り上げた。赤い毒薬のレッテルが貼ってあった。私がそれを開けると、かぐわしいアーモンドの香りが立ち上った。
「青酸か?」私は言った。
「その通りだ。郵便で届けられた。『あなたに私の誘惑物を送ります。あなたの助言に従うつもりです』これが伝言の内容だ。ワトソン、これを送ってきた勇気ある女性の名前は想像がつくだろう」
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