コンプリート・シャーロック・ホームズ
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シャーロックホームズは約束通り、一時頃、ヘイター大佐の喫煙室で合流した。ホームズは小さな老人を連れて来ており、最初の強盗に入られたアクトン氏だと紹介した。

「僕はこの小さな事件を説明する際、アクトン氏に同席して欲しかったのです」ホームズは言った。「アクトン氏は、当然事件の詳細に非常に興味があるはずです。申し訳ありません、大佐、私のようなにやっかいな人間を招いた事をさぞ後悔しておられるでしょう」

「逆ですよ」ヘイター大佐は暖かく答えた。「あなたの仕事の手法を学ばせて頂けて、非常に有意義でした。実は、その手法は私の予想を遥かに越えていて、あなたが出した結論を理解する事が全く出来ません。私はまだ、手掛かりになりそうなものさえ、何一つ見つける事ができません」

「私の説明を聞けば、がっかりなさるかもしれないかと不安ですね。しかし、友人のワトソンだけでなく知的好奇心を持つ人になら誰でも、自分のやり方を一切隠し立てしないというのが、私のこれまでの習慣です。しかし、着替え部屋で手荒な事をされてちょっとふらふらしていますので、まずブランデーを一杯頂いて元気付けようと思います。最近、体力がちょっと消耗しておりまして」

「もうあのような神経発作はないと信じています」

ホームズは快活に笑った。「いずれその話をする時が来るでしょう」ホームズは言った。「結論を出す際に役にたった色々なポイントを示しながら、順を追ってこの事件を説明しましょう。もし何かよく理解できない推理がありましたら、話の途中でも質問していただいて構いません」

「推理の技術で最も重要なのは、多くの事実の中から何が付随的で何が本質的かを見極める事です。そうしないとエネルギーと注意力が、集中しないで分散してしまうことになる。今回の事件では、死んだ男の手に握られていた紙を探す事が事件全体の鍵を握っているということは、最初から分かっていました」

「話に入る前に、皆さんに次の事実に注目していただきたいと思います。それは、もしアレク・カニングハムの陳述が正しければ、そしてもし、襲撃者がウィリアム・カーマンを撃った後すぐに逃走したのなら、死んだ男の手から紙を破り取ったのはその男であるはずがないという事です。しかし、その男でないのなら、アレク・カニングハム自身でなければなりません。なぜかと言うと、カニングハムの父が降りてくるまでに、使用人が何人か現場に来ていたからです。これは実に簡単な事ですが、フォレスター警部はこのことを見落としていました。フォレスター警部はこの地元有力者達が事件に何の関係もしていないと想定し始めていたからです。私はあらゆる先入観を持たないように務めており、事実がどういう方向に行こうとも、それに従順について行くようにしていますので、捜査のごく最初の段階から、アレク・カニングハム氏の果たした役割について、私は少し不信の目で見ていました」

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「次に私はフォレスター警部が我々に見せた紙の切れ端を非常に慎重に調べました。すぐに、私にはそれが非常に特徴ある文書の一部であることが明らかになりました。ここにその切れ端があります。なにか非常に暗示的なものが見て取れませんか?」

「かなり不揃いですな」ヘイター大佐が言った。

「そうです」ホームズは叫んだ。「これが二人の人物によって交互に単語を埋めて書かれたものであることは疑いようがありません。ここで、at と to の強い t、と、quarter と twelve の弱い t とを比較してみれば、すぐにこの事実に気付くでしょう。この四つの単語をほんの少し調べるだけで、learn と maybe は筆圧が強く、what は筆圧が弱い人間が書いていると、確信をもって言う事が出来るでしょう」

「なんだ、まったくその通りだ!」ヘイター大佐は叫んだ。「一体全体、なぜ二人の男がこんな形式で一つの手紙を書く必要あったのか?」

「明らかに悪事を企てていたからです。片方がもう一方を信用せず、何が起ころうと二人とも同じ責任を持つべきだと決めたのです。この二人の男のうち、at と to を書いた男が首謀者なのは明らかです」

「なぜ分かるのですか?」

「単に筆跡の違いを比べるだけでも推理できるはずです。しかしもっと確実な証拠があります。もしこの紙を注意深く調べれば、強い筆圧の人物が、もう一人が埋める空白を残して先に単語を書いたという結論にたどり着くでしょう。その空白はすべて十分というわけではなかった。お分かりになるでしょう、二人目の男はat と to の間に合わせようとして、 quarter を縮めて書いています。それで at と to は先に書かれていたことが分かります。最初に単語を書いた男が、間違いなくこの事件を計画した人物です」

「素晴らしい!」アクトン氏は叫んだ。

「まだまだほんのさわりに過ぎません」ホームズは言った。「しかしここで重要な地点にやってきました。ご存知無いかもしれませんが、専門家は筆跡を調べれば書いた人物の年齢を非常に正確に推定できるのです。一般的な場合では、かなりの信頼性で人物の年代を特定できます。今、一般的な場合と言いましたが、それは健康を害したり体力が衰えた場合も老齢と同じような兆候が現れるからです。病弱な人間であれば若くてもです。今回の場合、一人は強くて太い筆跡です。もう一人は、ちょっと乱れた様子ですが、まだなんとか字を判読できます。しかし t の横棒が無くなりだしています。これを見れば、片方は若い男で、もう片方は完全にもうろくとまではいかないが年配の男だと判断できるのです」

「素晴らしい!」アクトン氏は再び叫んだ。

「しかし、さらに微妙で興味深い点がありました。両者の筆跡には何か似通った部分があります。彼らは血縁関係にある男たちです。それはGreek の e に最も顕著ですが、私の目から見ると多くの細かい点が同じ事を示していました。私は二つの筆跡の中に家族の類型をたどる事が出来ると確信しています。もちろん、今回この文書を調査した結果のうち、主要なものだけを提示しています。他にも23の推測が成り立ちますが、これはどちらかと言えば専門家が興味を持つ事でしょう。こうした調査はすべて、この手紙を書いたのがカニングハム親子だという印象を強める働きをしました」

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「ここまで分かったので、僕が次にすべき事は、犯行現場を詳しく調査をし、どこまでの手掛かりがあるかを確かめることでした。僕はフォレスター警部と一緒に家に上がり、見るべきものすべて見ました。死体の傷は、確信を持って4ヤード以上の距離から発射された拳銃によるものだと判定できました。服には煙硝の跡がついていませんでした。したがって二人の男が格闘し、その際に拳銃が発射されたと言うのは、明らかにアレク・カニングハムの嘘でした。さらに、父も子も、同じ場所から犯人が道に逃げ出したと言いました。しかしその地点は、たまたま広い溝になっており底が湿っていました。この溝には足跡が全く無かったので、僕はカニングハム親子がここでも嘘を話したばかりか、現場に部外者は全くいなかったと確信しました」