コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「大変興味深いお話です」シャーロックホームズは言った。「私は既にあなたがバークレイ婦人に会い、お互いに相手を見分けたという話を聞いています。私の理解では、あなたはその後、家まで彼女をつけて行き、窓越しに彼女と夫の口論を目撃した。その中で、間違いなく彼女は夫があなたにした行為を面と向かって罵っていた。あなたは気持ちが高ぶって我慢できなくなり、芝生を走って横切り二人の間に割り込んだ」

「その通りです。私を見た瞬間、彼の顔は見たことも無いような形相になり、倒れて炉格子に頭をぶつけました。しかし彼は倒れる前に死んでいました。明かりの下で「死」という文字を見るようにはっきりと、彼の顔から死相を読み取りました。彼の後ろめたい心にとっては、私の姿を目にする事は弾丸で心臓を打ち抜かれるも同じでした」

「その後は?」

「ナンシーは気を失いました。私は鍵を開けて助けを呼ぶつもりで扉の鍵を彼女の手から取り上げました。しかしその途中で私は鍵を開けずに逃げたほうが良いように思えてきました。この状態では、私は怪しく思われるかもしれないし、そうでないにしても捕まれば私の秘密は明らかになるでしょう。私はあわてて鍵をポケットに入れ、カーテンに駆け上がっていたテディを追っている時、杖を落としました。テディを抜け出した箱に戻すと、私は一目散に走って逃げました」

「テディとは?」ホームズは尋ねた。

ヘンリー・ウッドは角においてあった檻らしきものにかがみ込んで、その前面を引き上げた。次の瞬間、美しい赤味を帯びた茶色の生物が滑り出て来た。細くてしなやか、オコジョのような足、長細い鼻、これまで見た動物の中で最も美しい赤い目をしていた。

「マングースだ」私は叫んだ。

「そういう人もいます。エジプトマングースと言う人もいます」ヘンリー・ウッドは言った。「私は蛇取りと呼びます。テディは驚くほど素早くコブラを捕えるのでね。牙を抜いた奴を一匹持って来ています。テディはそれを毎晩捕まえては食堂にいる連中を喜ばせています」

「他に何か聞きたいことがありますか?」

「もし、バークレイ夫人が深刻な事態になれば、もう一度あなたに問い合わせる必要があるかもしれません」

「そのときはもちろん名乗り出ます」

「しかしそうでなければ、卑怯な振る舞いをしたとは言え、死者のスキャンダルを蒸し返す必要はないでしょう。バークレイ大佐が三十年間ずっと、自分の卑怯な振る舞いに対して良心の呵責に厳しくさいなまれてきたことを知ればいくらか慰めにはなるでしょう。ああ、通りの反対側にマーフィ大佐が歩いている。さようなら、ウッドさん。昨日から何か進展があったか確認したい」

私たちはマーフィ大佐が通りの角に着いたところで追いついた。

「や、ホームズさん」マーフィ大佐は言った。「この大騒ぎが何でも無かったことはもう聞かれましたよね?」

「どういうことですか?」

「今しがた検死が完了しました。医学的証拠によると死因は脳卒中によるものと断定されました。結局、極めて単純な事件だったわけです」

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「ああ、驚くほど薄っぺらですね」ホームズは笑いながら言った。「行こう、ワトソン、これ以上オールダーショットに用があるとは思えない」

「一つ引っかかる点があるのだが」私は駅に行く道すがらに言った。「もし、夫の名前がジェームズで、もう一人がヘンリーなら、話していた David とは誰なんだろう?」

「ワトソン、もし僕が、君が好んで描きたがる理想的な推理力の持ち主だったなら、その一語で全ての事が分かっていたはずだ。あれは明らかに叱責の言葉だ」

「叱責?」

「そうだ。知っての通り、ダビデ*は時々道を踏み外した。そしてある時、ジェームズ・バークレイ軍曹と同じ過ちを犯した。ウリヤとバト・シェバの出来事*を知っているだろう?僕の聖書の知識は少々錆付いているかもしれないが、サムエル記の上下いずれかにその話があるはずだ」

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