「こういうことです。私は今、背がラクダのように曲がり手足は捩じれています。しかし、117大隊の中でヘンリー・ウッド伍長が一番格好いい男だと呼ばれた時もあったのです。我々はその時、インドの野営地にいました。その場所をバーティーと呼びましょう。この前死んだバークレイは、私と同じ中隊の軍曹でした。そして連隊一の美女、そう、そしてこの世に生まれた女性の中で最も素晴らしい女性が、軍旗軍曹の娘、ナンシー・デヴォイでした。彼女を愛した男が二人いましたが、彼女が愛した男は一人でした。暖炉の前にうずくまるこの哀れな男を見て、私が男前だったから彼女が私を好きになったと聞けば、さぞお笑いになるでしょうね」

「私は彼女の心を射止めましたが、父親はバークレイと結婚させるつもりでした。私は向こう見ずで無鉄砲な男だったのに対して、バークレイは教育を受け、すでに将校になる見込みがありました。しかし彼女は私に忠誠を誓っていました。そして私が彼女と結婚できると思った矢先、大反乱が勃発し、国中が修羅場と化しました」

「我々はバーティーに閉じ込められました。我々の連隊は、砲兵が半個中隊、シーク兵が一個中隊でした。そして多数の民間人と女性がいました。周りには一万人の反乱兵がいて、ネズミの籠の周りのテリアの群れのように沸き立っていました。二週間経って水が尽きました。そして問題は、内陸に進軍しつつあったニール将軍の縦隊と連絡が取れるかどうかでした。女子供を連れていては戦線を開いて脱出する望みはありませんでしたので、これが我々の唯一のチャンスでした。そのため、私はそこを脱出してニール将軍に我々の危機を知らせることを志願しました。私の申し出は受け入れられました。そして私はバークレイ軍曹と話し合いました。彼は他の誰よりも地理に詳しいと見られていた人物です。そして彼は、私が反乱兵の包囲網を抜けられそうな進路を策定しました。その夜の十時、私は出発しました。これには千人の命が掛かっていましたが、私がその夜、壁を乗り越えた時、頭にあったのは唯一人でした」

「私が行く道は干上がった水路に沿っていました。これは敵の監視兵の目から死角になるだろうと期待した場所です。しかし私が這いながら角を曲がった時、六人の敵に出くわしました。彼らは暗闇の中にしゃがんで私を待ちかまえていました。一瞬で私は殴られて気絶し、手足を縛られました。しかし本当に衝撃を受けたのは頭部ではなく心でした。私が意識を取り戻し、分かる範囲で彼らの話に耳を傾けていると、私の同僚、私が行く道を設定したまさにその人物バークレイが、地元の使用人を使って私を敵の手に渡す裏切りを行ったという事が十分に聞き取れました」

「これ以上、この話をする必要はないでしょう。もう、ジェームズ・バークレイという男がどんな事をもやりかねない人物かお分かりいただけたはずです。バーティはニール将軍によって次の日に解放されました。しかし反乱兵は撤退する際、私を連行して行きました。そして再び白人の顔を見るまでに長い年月がかかりました。私は拷問され、脱走を試み、そして捕らえられ、また拷問されました。あなたも自分の目で私がどんな状態になったか確認できるでしょう。ネパールに逃げた彼らの一群が私を連れて行き、それからダージリンを越えました。私を連れていた反乱兵は高地の住民に殺害され、私は奴隷にされましたが、その後脱走しました。しかし私は南ではなく北に行かざるをえませんでした。そして私はアフガニスタンにまで到着しました。長い間放浪し、最後にパンジャブまで戻って来ました。そこで私は、主に地元民の間で習い覚えた手品で食い繋ぎました。惨めな体となった私にとって、イギリスに戻って旧友に生きていることを伝えて、何の意味があるでしょう。どれほど復讐を望んでも、帰る気にはなれませんでした。むしろナンシーや旧友にはハリー・ウッドは、まっすぐな背中で死んだと思っていて欲しかったのです。チンパンジーのように杖を突いて這いずり回っている姿を見られるよりはその方がましでした。みんな私が死んだことを疑いませんでしたし、私も知らせるつもりはありませんでした。バークレイがナンシーと結婚し、連隊でトントン拍子に出世した話は聞きました。しかしそれでも私は何も話す気にはなれませんでした」

「しかし人間は年をとると故郷が懐かしくなるものです。私は何年も、イギリスの緑鮮やかな野原や生垣を夢に見てきました。とうとう死ぬ前にもう一度それを見ようと心に決めました。私は旅行できるだけのお金を蓄えていましたので、この兵隊の住んでいる場所にやって来ました。私は彼らの生活習慣や楽しませ方を心得ていますので、生活できるだけの稼ぎは十分に得られます」