背中の曲がった男 11 | 入院患者 1 | 入院患者 2 |
私は、友人シャーロックホームズが身につけている特異な知的能力を、その一部でも解明したいという思いで事件記録を残してきた。このどちらかといえば雑然とした記録に目を通しながら、あらゆる点で私の意図を満足させる実例を選び出そうとするたび、困難に直面してきた。ある種の事件では、ホームズが分析的な推理力を巧みに操り、独特の捜査方法の威力が実証されているにも関わらず、事実関係自体は単純かつ平凡で、公表する価値があるようには思えなかった。これとは逆に、事実関係が非常に特異で劇的な性格を帯びた事件に関与していても、事件を解決するのにホームズが果たした役割が、伝記者たる私の望むほど顕著なものではなかったという場合もよくあった。私が「緋色の研究」という題で記録した小さな事件、そしてその後のグロリアスコット号の失踪に関係した事件、この二つは歴史家を常に危険にさらすスキュラとカリュブディス*の実例を提供している。私が今まさに書こうとしている事件では、ホームズの果たした役割はそれほど目覚ましいものではないかもしれないが、全体の出来事の連鎖は非常に珍しいものであり、やはり事件簿からはずすことはできないのだ。
十月の陰鬱な雨の日だった。「ワトソン、こんな天気だが」ホームズが言った。「しかし、夜になっていい風が出てきた。ロンドンの町を散歩してみるのはどうだ?」
私は小さな居間にいるのがうんざりしていたので喜んで同意した。三時間ほど、フリート街やストランド街を往来する、無限の変化に富んだ人生の万華鏡を眺めながら、一緒に歩き回った。ホームズの話は鋭い細部観察と見事な推理能力に基づく独特なもので、私はずっと面白く聞き入っていた。ベーカー街に戻って来たのは十時過ぎだった。馬車が戸口に止まっていた。
背中の曲がった男 11 | 入院患者 1 | 入院患者 2 |