コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「もうかばう理由はないでしょう」ホームズは言った。「彼の居場所を教えてください。もしあなたが悪事に加担したのなら、その償いに今、私たちを手助けしてください」

「逃げる場所は一つしかありません」彼女は答えた。「沼地の真中の島にある古い錫鉱山です。犬を飼っていたのはあの場所です。そして避難する時に備えて準備をしていたのもあの場所です。あそこに逃げ込んだに違いありません」

霧の塊が白いウールのように窓に押し寄せていた。ホームズはランプを窓に掲げた。

「ご覧なさい」彼は言った。「こんな夜にグリンペン沼地に入る道を見つけることは、誰にも出来ません」

彼女は笑って手を叩いた。激しい歓喜に目と歯がキラリと光った。

「入る道が見つかったとしても、出てはこれませんね」彼女は叫んだ。「こんな霧の中で、どうやって案内杭を見つけられるでしょうか?彼と私は一緒に、沼地を抜ける道の目印として杭を埋めました。ああ、今日それを抜いてしまえたら。そうすれば彼はあなた方の手の中です!」

この霧が晴れるまでは追跡が無意味なのは明らかだった。それまでの間、レストレードを家の番に残し、ホームズと私は準男爵と一緒にバスカヴィル館に戻った。ステイプルトン兄妹の秘密をこれ以上彼に隠しておくことは出来なかったが、彼は愛していた女性の真実を知った時、その痛手を気丈に受け止めた。しかしこの夜の冒険の衝撃は、彼の神経をボロボロにし、夜が明ける前に、彼は高い熱を出して意識が混濁し、モーティマー医師の介護を受けて寝込んだ。すこし先の話になるが、彼ら二人は、サー・ヘンリーがもう一度かつてのように元気はつらつとした頑丈な男に戻ってあの不吉な土地の主人となるまで、一緒に世界旅行に出かける事になったのだ。