バスカヴィル家の犬 5 | バスカヴィル家の犬 6 | バスカヴィル家の犬 7 |
我々の前に手足を伸ばして横たわっていたのは、大きさと筋肉だけを見ても恐ろしい生物だった。純血のブラッドハウンドでもマスティフでもなく、どうやら両者を掛け合わせたように見えた、 ―― 不気味で、獰猛で、小さな雌ライオンほどもあった。死んで動きがなくなった状態でも、大きなあごは青い炎を滴らせ、小さな落ち込んだ残虐な目は炎で隈どられていた。私は燃え立っている鼻筋に手を置いた。そして私がその手を上げると、自分の指がくすぶり暗闇の中で輝いた。
「リンだ」
「巧妙に調合したな」ホームズは死んだ動物を嗅いで言った。「臭いを嗅ぎ分ける能力を邪魔しないように、無臭になっている。サー・ヘンリー、あなたをこんなに恐ろしい目に合わせて本当に申し訳ないことをしました。私は犬に対して準備をしていましたが、こんな怪物が出てくるとは思いませんでした。そしてあの霧のために、迎え撃つ時間がほとんどありませんでした」
「あなたは命の恩人です」
「その前に、あなたを危険にさらしてしまいました。立ち上がる力がありますか?」
「そのブランデーをもう一口いただければ、何でも出来るようになるでしょう。では、さあ、起き上がりますから、手を貸してください。あなた方はどうするつもりですか?」
「あなたとここで別れます。あなたは今夜はこれ以上冒険をする準備はできていません。お待ちいただければ、私達の一人か二人かが館に連れて帰ります」
彼はよろよろと立ち上がろうとしたが、まだ顔色は幽霊のようで、膝がガクガクと震えていた。私たちは、彼を近くの岩まで連れて行った。彼は震えながらそれに座ると、顔を手にうずめた。
「今は、あなたを置いていかなければなりません」ホームズは言った。「やらなければならない仕事が残っています。そして一瞬一瞬が貴重なのです。真実は判明しました。残るは犯人を逮捕するだけです」
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