コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「君は僕の流儀を知っているだろう、マック君。しかし隠しておく時間はできる限り短くするつもりだ。僕はただある方法で詳細を確認したいだけだ。それは非常に簡単にできる。それが終われば、僕はそのままロンドンに戻る。後は全部君達の好きにしていい。独自の捜査をさせてもらうのは、本当に申し訳ない。だが、僕の探偵としての経歴全体を通じても、これ以上に奇妙で興味ある事件は思い出せないのだ」

「まったく理解ができません、ホームズさん。昨夜タンブリッジ・ウェルズから戻ってあなたに会った時、あなたは我々の結論に大体賛成していました。それから何があって、あなたはこの事件の見方を完全に変えたのですか?」

「聞きたいというなら、答えよう。君に話した通り、僕は昨夜領主邸で数時間を過ごした」

「なるほど、それで何が起きたんですか?」

「ああ、それについては、今は本当に大雑把にしか答えられない。話は変わるが、僕は短いが分かりやく書かれた面白い記述を読んでいたんだ。地元の煙草屋で僅か一ペニーで買える、あの古い建物に関する解説書だ」

ここでホームズはベストのポケットから、領主邸の荒っぽい古版画が表紙に印刷された小冊子を取り出した。

「マック警部。周辺の歴史的環境に対して理解を深めると、捜査が非常に面白くなるよ。そんなにイライラしないでくれ。保証する。こんなにつまらない説明でも、何かしら過去のイメージが心に浮かぶものだ。ひとつ、例として読み上げてみよう。『ジェームズ一世の治世五年目、元々相当古い建物があった場所に建てられたバールストンの領主邸は、堀に囲まれたジャコビアン様式の邸宅として、現存する最も見事な建築物である・・・・・』」

「ふざけないで下さい、ホームズさん!」

「チッ、チッ、マック君、 ―― 君がイライラし出したのは最初から分かっていたがね。よかろう。この話題がそんなにお気に召さないのなら、そのまま読むのはやめよう。しかし、あの邸は1664年、議会制定大佐が利用し、大内乱の最中にはチャールズ一世が何日間か隠れ、そして最後には、ジョージ二世がそこを訪れたという記録があると聞けば、君も、この古い建物には色々と興味深い歴史があることは認めるだろう」

「それを疑っているわけではありませんよ、ホームズさん。しかしそれは私達には関係ない話です」

「関係ない?関係ない?マック君、視点の広さは我々の仕事で欠く事のできないものだ。アイデアの相互作用と、間接的な知識を利用する事は、しばしば途方もない利益があるのだ。こんな小言を言って申し訳ない。しかし、ただの犯罪通とは言え、それでもかなり年長で、おそらく君たちよりもっと経験を積んでいる一人の人間の意見として受け止めて欲しい」

「それは誰よりも認めています」警部は心から言った。「あなたは事件を解決する力がある、それは認めます。しかしあなたは、あまりにも人がついていけないやり方をしています」

「よし、よし、過去の歴史はやめにして、現在の事実に取り掛かろう。僕は既に言ったように、昨夜領主邸を訪れた。僕はバーカーにもダグラス夫人にも会っていない。彼らを煩わす必要はなかった。しかし僕は、夫人がそれほどやつれてはおらず、豪華な夕食を食べたと聞いて嬉しかった。ともかくあの忠実なエイムズに会うのが僕の訪問の目的だった。彼と僕はちょっと仲良くなり、最終的に僕は他の誰にも知られずに、しばらく一人で書斎にいることを許可してもらった」

「なんと!あれと一緒に?」私は叫んだ。

「いや、いや、今は全部綺麗に片付いている。聞いたところでは、その許可を与えたのは君だね、マック君。あの部屋は普段の状態だった。そこで僕は非常に有益な15分を過ごした」

「何をしていたんですか?」

「まあ、こんな簡単な事は隠したりしないよ。僕は無くなったダンベルを探していた。僕の中で、この事件におけるあのダンベルの価値は、どんどんと高くなってきている。最終的には、それを発見できた」

「どこにあったんですか?」

「ああ、そこがまだ未解明部分との境界線だ。もう少し調べさせてくれ、本当にもう少しだ。僕が知っていることは何もかも君達にも説明すると約束する」

「まあ、あなたのおっしゃるとおりにする以外にないですね」警部は言った、「しかし我々にこの調査をやめろとは、・・・・・一体全体どういうわけでこの調査を放棄しなければならないんですか?」

「簡単な理由だ、マック君。君はそもそも何を捜査しているか分かっていない」

「我々はバールストン邸のジョン・ダグラス氏殺害犯を捜査しています」

「そうだ、その通りだ。しかし自転車に乗った謎の男の後を追うような面倒なことはしないようにしろ。何にもならんことは保証する」

「では、あなたは我々にどうしろとおっしゃるのですか?」

「言うとおりにするのなら、どうすればいいか正確に言うよ」

「まあ、あなたが独自の奇妙な方法の背後に、いつも何らかの根拠を持っているというのは、認めざるをえません。あなたの助言どおりにしましょう」

「ホワイト・メイソンさんは?」

地元警察官は力無く私たちを順に見た。彼は、ホームズにもその手法にも馴染みがなかった。「ええ、警部がそれでよろしいのでしたら、わたしも結構です」彼は遂に言った。