コンプリート・シャーロック・ホームズ
ホーム長編緋色の研究四つの署名バスカヴィル家の犬恐怖の谷短編シャーロック・ホームズの冒険シャーロック・ホームズの回想シャーロック・ホームズの帰還最後の挨拶 シャーロック・ホームズの事件簿

「ワトソン、僕がどれほど熱心に、この驚くべき一連の出来事に耳を傾けたか、そして出来事の一つ一つを組み立て、何か共通の糸口を見出そうと努力したかは想像できるだろう。執事ブラントンが消えた。メイドのレイチェルが消えた。レイチェルはかつてブラントンを愛していたが、その後彼を憎むことになった。レイチェルは激しく情熱的なウェールズ気質だ。彼女はブラントンの失踪直後、非常に興奮していた。彼女は奇妙な中身が入った袋を沼に放り込んだ。これらは全て考えに入れなければならない要素だ。しかしどれも事件の核心ではない。何がこの一連の事件の発端なのか?そこにこのもつれた糸の終端がある」

「『マスグレーヴ、その書類を見なければいけない』僕は言った。『君の執事が職を失う危険を冒してまで、調べてみようとしたものだ』」

「『我が家の儀式はちょっと馬鹿げたものだが』マスグレーヴは答えた。『しかし、少なくともそのかわりに古いという取り柄はある。君があえて目を通したいという場合に備えて、問答の写しは持って来ている』」

「マスグレーヴは僕が今持っているこの書類を手渡した、ワトソン。これはマスグレーブ家代々の後継者が成人する際、唱えなければならない奇妙な問答だ。この問答をそのまま読んでみよう」

「『それは誰のものか?』」
「『去りし人の物なり』」
「『それは誰が持つべきか?』」
「『来たりし人が持つべき物』」
「『太陽はどこにあるか?』」
「『楢の木の上に』」
「『影はどこにあるか?』」
「『楡の木の下に』」
「『どのように歩むか?』」
「『北へ10歩、そして10歩、東へ5歩、そして5歩、南へ2歩、そして2歩、西へ1歩、そして1歩、そして下へ』」
「『何を我々は与えるか?』」
「『我々のもの全てを』」
「『なぜ我々は与えるか?』」
「『信頼のためである』」

「『原文には日付が無いが、これは17世紀中頃の綴りで書かれている』マスグレーヴが言った。『しかし残念だが、この事件の解決にはあまり役に立たないだろう』」

「『少なくとも』僕は言った。『これは別の謎で、しかも元の謎よりさらに興味深い。もしかすると、一つの謎を解けばもう一つの謎が解決できるかもしれない。非常に申し訳ないが、マスグレーヴ、僕には君の執事ブラントンが十代に渡る君の先祖よりも鋭い洞察力を備えた、非常に頭の切れる男に思える』」

「『何が言いたいのかよく分からないが』マスグレーヴは言った。『僕にはその書類は実用的な価値が無いように見えるが』」

「『しかし僕には途方もなく実用的に見えるのだ。そして多分ブラントンも同じように考えていたと思う。彼はおそらく君に見つかった日以前にも、この書類に目を通していたはずだ』」

「『それは大いにありうるな。隠すような努力は全くしていなかった』」

「『ブラントンは最後になって記憶をはっきりさせておきたいと単に思っただけだと思う。君の話によると、彼は何か地図か図面のようなものを文書と比較していた。そして君が現れた時にそれをポケットに突っ込んだ』」

「『その通りだ。しかし我が家の古いしきたりでブラントンに何が出来たんだ。それにこのもったいぶった話に何の意味があるんだ?』」

「『それを解き明かすのはそれほど難しくないと思うよ』僕は言った。『君がよければ、次の列車でサセックスに行き、現場でこの件についてもう少し掘り下げてみよう』」