コンプリート・シャーロック・ホームズ
ホーム長編緋色の研究四つの署名バスカヴィル家の犬恐怖の谷短編シャーロック・ホームズの冒険シャーロック・ホームズの回想シャーロック・ホームズの帰還最後の挨拶 シャーロック・ホームズの事件簿

「その日の午後、僕達二人はハールストンにいた。もしかすると、君はすでにこの有名な古い館の写真を見たり解説を読んだりしているかもしれないから、この建物はL型をしているととだけ言っておこう。短い部分が古い部分で、長い新しい部分はそこに建て増しをしてきた。古い部分の中心にある低い扉の太いまぐさの上に、1607という日付が刻まれている。しかし専門家の一致した意見では、梁材や石組みは実際はこれよりさらに古い。この古い部分はとてつもなく壁が分厚く窓が小さいので、前世紀になって居室は新しい棟へ移された。そして古い棟は、利用される機会があっても、倉庫や地下貯蔵室として使われるくらいだ。家の周りは、素晴らしい古木がある見事な私園になっている。そしてマスグレーヴが既に言及していた沼が、建物から約200ヤード離れた大通りの近くにある」

「ワトソン、僕は既にはっきりと確信していたよ。別々の謎が三つあるのではなく、謎はただ一つだ。そして僕がマスグレーヴ家の儀式を正しく解読することができれば、手掛かりを掴むはずだ。そこから、ブラントンとメイドのレイチェル・ハウエルズの両者の失踪の真相に行き着くことができる。この時、僕はこの一つの謎の解決に全精力をつぎ込んだ。なぜ、ブラントンはこの古い決まり文句をそこまで極めたいと願ったのか。明らかに、彼はそこにマスグレーヴ家の誰もが見落としていた何かを見出したからだ。そしてそこで何か上手い汁を吸えると予想したからだ。では、それは何か。そしてどのようにブラントンの運命を左右したのか?」

「この儀式書を読んでみて、僕には、ここに書かれている計測部分が、この儀式書の他の部分で暗示しているどこかの地点を指しているのは明白だった。そしてもしその地点を見つけることが出来れば、マスグレーヴ家の先祖達がこんなにも奇妙な手段を使ってまで記憶に留めなければならないと考えていた秘密が何なのかが、すぐに分かるはずだ。開始点は二つ与えられていた。楢と楡の木だ。楢に関しては疑問の余地は無かった。家のすぐ前の車道の左側に、ひときわ大きな楢の木が立っていた。これまで見た中でも最も見事な木のひとつだった」

「『あれが儀式に描かれた地点だ』僕はその木の側を通り過ぎる時に言った」

illustration

「『恐らくノルマン征服の頃から立っている木だ』マスグレーヴは答えた。『幹の周りが23フィートある』」

「僕が定点を置くべき場所の一つだ」

「『古い楡の木はあるか?』僕は訊いた」

「『あそこに非常に古い木があったが、十年前に雷に打たれて切り倒したので切り株しかない』」

「『どこに立っていたか分かるか?』」

「『ああ、もちろんだ』」

「『他に楡の木はあるか?』」

「『古いものは全然ない。ブナならいっぱいあるが』」

「『生えていた場所を見たいな』」

「我々は馬車で乗り付けていた。マスグレーヴは家に入る前に、すぐに僕を楡の木が立っていた芝生の切れ目まで案内した。それは家と楢の木のほぼ中間だった。僕の調査は順調に思えた」