マスグレーヴ家の儀式 3 | マスグレーヴ家の儀式 4 | マスグレーヴ家の儀式 5 |
「『君が本当に必要だと思うなら』マスグレーヴは少しためらいながら言った。『しかし、僕の話を続けよう。僕はブラントンが残していた鍵を使って引き出しに鍵を掛け直した。そして僕が出ようとして振り返った時、驚いた事にブラントンが戻って来て僕の前に立っていた』」
「『《マスグレーヴさん》ブラントンは気が高ぶってしわがれたような声で叫んだ。《こんな不面目には耐えられません。私はいつも自分の立場に誇りを持ってきましたので、不名誉は死にも値します。もし私を絶望に追いやるのなら、あなたに祟るでしょう、 ―― きっと祟ります。もし私がやった事のせいでこれ以上手元に置けないというのでしたら、お願いですから、一ヶ月後に私自身の自由意志で辞めたことにして、解雇してください。それなら耐えられます、マスグレーヴさん。しかし、親しい人たちの目の前でお払い箱になるのは耐えられません》』」
「『《ブラントン、お前はそんな思いやりをかける値打ちのない人間だ》僕は答えた。《お前の行いは恥知らずだ。しかし、お前は長い間家族に仕えてくれた。お前を公衆の面前で侮辱するつもりはない。だが一ヶ月は長すぎる。一週間で出て行け。出て行く理由は何とでもつけろ》』」
「『《一週間ですか?》ブラントンは絶望的な声で叫んだ。《二週間、・・・・・せめて二週間下さい》』」
「『《一週間だ》僕は繰り返した。《それでもお前は非常に寛大な扱いを受けていると思うがいい》』」
「『ブラントンはまるで打ちひしがれたように、頭を胸まで垂れ、僕が灯りを消して寝室に戻る前にこそこそと立ち去った。』」
「『ブラントンはそれから二日間、熱心に自分の仕事に精を出していた。僕は何が起きたかは他言せず、彼がどのように自分の不面目を繕うか、ちょっと興味を持って見てみようと待っていた。しかし三日目の朝、朝食後その日の指示を僕から受けるのが日課だったのにもかかわらず、ブラントンは現れなかった。僕が食堂を出た時、メイドのレイチェル・ハウエルズと偶然出会った。僕は君にレイチェルはつい最近まで病気だったと言っていただろう。彼女はひどく青ざめて弱々しかったので、僕は彼女に仕事をしていてはいけないと諌めた」
「『《寝ていなさい》僕は言った。《もっと元気になるまで仕事に戻ってはいかんよ》』」
「『レイチェルが非常に奇妙な表情をして僕を見たので、僕は彼女の脳が侵されたと疑い始めた』」
「『《私は大丈夫です、マスグレーヴさん》レイチェルは言った』」
「『《医者の意見を聞いてみよう》私は答えた。《すぐに仕事はやめなさい。そして階下に行ったらブラントンに私が会いたいと言っているとだけ伝えてくれ》』」
「『《執事は行ってしまいました》レイチェルは言った』」
「『《行った!どこへ行った?》』」
「『《ブラントン執事は行ってしまいました。誰も彼を見ていません。彼は部屋にいません。ええ、そうです。彼は行ってしまいました。彼は行ってしまいました!》レイチェルは壁に持たれかかり、甲高い声で何度も笑い出した。僕は、この突然のヒステリーの発作にぎょっとして、助けを呼ぶためにベルのところまで走って行った。レイチェルはまだ叫んだり泣いたりしていたが、部屋に運ばれた。その間、僕はブラントンを探した。ブラントンが失踪したのは間違いなかった。ベッドには寝た痕跡がなく、前の晩に自室に下がってから誰も見たものはなかった。しかし彼が家を出て行くとは考えにくかった。窓と扉は朝、鍵がかけられた状態で見つかった。衣服、時計、所持金までが部屋にあった。しかし、普段着ている黒服がなくなっていた。室内履きも無くなっていたが、ブーツは残されていた。それでは、執事のブラントンは夜中にどこへ行ったのか。そして彼に何が起きたのか?』」
「『もちろん、家は地下室から屋根裏まで探したが、ブラントンの痕跡は無かった。僕が言ったように、古い家は迷路のようになっていた。特に古い棟の方は、実質的に人が住んでいない。それでも全ての部屋と地下室をくまなく探した。しかし失踪したブラントンの痕跡はかけらも見つからなかった。僕には全ての持ち物を置いたまま立ち去る事ができるとは信じられなかった。それにどこに行くところがあるだろうか?僕は地方警察を呼んだが、何も分からなかった。前の晩に雨が降っていて、家の周りの芝生と道を全て調べたが何も見つからなかった。事件がこういう状態だった時、その謎を忘れてしまうような新しい出来事が起こった』」
「『レイチェル・ハウエルズは二日間非常に具合が悪かった。朦朧としたり、ヒステリー状態となったり、一晩中介抱するために看護婦が雇われた。ブラントンが失踪してから三日目の夜、その看護婦は、レイチェルが静かに寝ているのを見て、安楽椅子で居眠りをした。看護婦が朝早く目を覚ました時、ベッドは空になっていた。窓が空いていて、レイチェルは影も形もなかった。僕はすぐに起こされ、下男二人を連れてただちに失踪したレイチェルを探しに出掛けた。彼女がどちらに向かったかを見つけるのは簡単だった。窓のすぐ下にレイチェルの足跡があり、芝生を越えて沼の端まで簡単に追う事が出来た。足跡は敷地の外に通じる砂利道の隣で消えていた。その沼は8フィートの深さがあり、発狂した哀れなレイチェルの足跡が沼のほとりで終わっているのを見た時の気持ちは想像がつくと思う』」
「『もちろん、すぐに沼の底をさらって遺体収容作業を始めた。しかし死体は見つからなかった。それとは別に、全く予想もつかないものが出てきた。それは麻の袋で、その中に古い錆びだらけの変色した金属の塊と、鈍い色の水晶かガラスの破片が数個入っていた。沼から発見されたのはこの奇妙な袋だけだった。昨日、出来る限りの捜索はすべてやったが、レイチェル・ハウエルズとリチャード・ブラントンのどちらの行方も一切分からない。地方警察は途方に暮れている。それで僕は最後の手段として君のところに来たのだ』」
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