コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「ここで確認するべきものは全て確認できたようです、ホールダーさん」ホームズは言った。「事件を解決するには、ベーカー街に戻ったほうが良さそうです」

「ホームズさん、しかし宝石はどこにあるのすか?」

「分かりません」

ホールダー氏は手を握り締めた。「もう宝石は戻らないんでしょう!」ホールダー氏は叫んだ。「私の息子は?望みがあるのですか?」

「私の見解はさっき申し上げたとおりです」

「それでは、昨夜この家でどんな犯罪が起きたのですか?お願いですから教えてください」

「明日の朝9時から10時の間に、ベーカー街の部屋へお越しいただければ、事件についてもっとはっきりとしたお話ができると思います。この件で、宝石を取り戻すのに必要な費用は幾らかかっても構わないという、白紙委任状を頂いたと理解してよろしいですか」

「取り戻せるなら全財産でもはたきます」

「それはよかった。それでは、これから明日の朝まで事件を捜査します。では、失礼します。夜までにもう一度こちらにお邪魔するかもしれません」

ホームズが既に事件の全容を掴んでいることは、私には明らかだった。しかしいったいどんな結論を出したのか、私にはおぼろげにも想像する事が出来なかった。帰り道で何度か、事件の要点を聞き出そうと探りを入れたが、そのたびにホームズははぐらかして別の話をしたので、私はあきらめざるを得なかった。私たちが自宅に戻った時、まだ三時になっていなかった。ホームズは急いで自分の部屋に入ると、数分後、浮浪者の身なりで出てきた。襟を立てたテカテカの汚い上着、赤い首巻、擦り切れた靴、絵に描いたような浮浪者の姿だった。

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「これでいいだろう」ホームズは暖炉の上の鏡を覗き込んで言った。「一緒に来ないかと言いたいところだが、ワトソン、ちょっと無理なようだな。僕が追っているのは、この事件の手掛かりか、さもなくばただの幻影か、すぐにどちらか分かるだろう。数時間で帰って来たいなと思っている」ホームズは食器棚にあった牛肉の細い部分から肉を切り取り、丸いパンで挟んだ。ホームズは、この荒っぽい弁当をポケットに突っ込むと探索に出発した。

私がちょうどお茶を飲み終えた頃、ホームズが帰ってきた。明らかに上機嫌で、横が伸縮性素材で出来ている履き古したブーツを一足、手に提げてぶらぶらさせていた。ホームズはその靴を部屋の片隅に投げ捨てると、自分で紅茶をいれて飲んだ。

「ちょっと通りすがりに寄っただけだ」ホームズは言った。「すぐに出かけるよ」

「どこへ?」

「ああ、高級住宅街の反対側だな。帰れるまでに、相当時間がかかるかもしれない。遅くなりそうだから、起きて待っていなくてもいいよ」

「捜査は進んでいるのか?」

「そうだな、まあまあだ。特に問題はない。ここを出た後、ストリーサムに行って来た。だが、家には上がっていない。これは非常に面白い事件だから、絶対に逃したくなかった。しかし、ここで無駄話をしているよりも、このみすぼらしい服を脱いで、上品な僕に戻るべきだな」

私はホームズの態度で、口に出している以上に捜査に満足している事が分かった。ホームズの目は輝き、土気色の頬には赤味さえ差していた。ホームズは急いで上階に行くと、数分後、広間のドアが閉められる音が聞こえた。この音は、ホームズが再び大好きな狩りに出て行った事を物語っていた。

私は十二時まで待っていたが、戻って来る気配が無かったので、自室で寝ることにした。ホームズが夢中で手掛かりを追っている時は、何日間も続けて家を空けることは珍しいことではなかったので、帰りが遅いのは全然意外ではなかった。戻って来たのが、何時頃かは分からないが、次の朝朝食に降りていくと、ホームズはこれ以上ないほど生き生きとした様子で、片手にコーヒーカップ、もう一方に新聞を持って座っていた。