「もちろんです。この恐ろしい事件を解明する手助けになるのでしたら」
「あなたは昨夜、ご自分では物音を聞かなかったのですか?」
「伯父が大声を出すまで、何も聞いていません。その声で、現場に向かいました」
「事件の前夜、あなたが窓と扉を閉めたんですね。すべての窓の鍵は掛けましたか?」
「はい」
「今朝、全部閉まったままでしたか?」
「はい」
「恋人のいるメイドがいますね?たしか、あなたは昨夜伯父さんに、彼女が外出して恋人と会っていたとおっしゃいましたね?」
「はい。あの晩応接室にコーヒーを運んだのはそのメイドです。宝冠に関する伯父の話を聞いたかもしれません」
「なるほど。あなたはメイドが外に行って恋人に話し、その二人が強盗を計画したかもしれないと言いたいようですね」
「そんなあやふやな想像が何になるんですか」ホールダー氏はイライラして叫んだ。「私は、息子が宝冠を手にしているところをこの目で見たと言っているんですよ?」
「ちょっと待ってください、ホールダーさん。それは後で話しましょう。そのメイドに関してですが、メアリーさん。たしか、あなたはメイドが勝手口から帰って来たところを見たのですね?」
「そうです。私が昨夜、扉の鍵が閉まっているかを確認しに行くと、入って来るメイドとすれ違いました。暗がりの中にいる男性も見ました」
「知っている男ですか?」
「ええ、もちろんです!青果商の男性で、うちには野菜を届けています。名前はフランシス・プロスパーです」
「彼が立っていたのは」ホームズは言った。「扉の左側、 ―― すなわち、戸口の前よりもさらに道の向こうですね?」
「はい。その通りです」
「木製の義足をしていますね?」
メアリーの表情豊かな黒い目に恐れに似たものが走った。「まさか・・・・手品師のような方」メアリーは言った。「どうしてそのことが分かったのですか?」メアリーは微笑みかけたが、それを見てもホームズの痩せた真剣な顔に笑みは浮かばなかった。
「上の階を見せていただければ幸いです」ホームズは言った。「多分、もう一度家の外を調べたいと思う事になるでしょう。その前に、階下の窓を見たほうが良いかもしれないな」
ホームズは足早に窓を一つずつ見て回った。足を止めたのは、ホールから厩舎への道が見える大きな窓だけだった。ホームズはこの窓を開いて、窓枠を倍率の高い拡大鏡で非常に入念に調べた。「それでは上に行きましょうか」最後にホームズはこう言った。
ホールダー氏の衣裳部屋は狭く、内装も簡素だった。灰色の絨毯、大きな箪笥、そして背の高い鏡があった。ホームズはまず箪笥に近付いて鍵穴をじっくりと見た。
「どの鍵でこれを開けたんですか?」ホームズは尋ねた。
「息子が言っていたものです、 ―― 物置部屋の戸棚用の鍵です」
「今お持ちですか?」
「鏡台の上にあります」
シャーロックホームズはその鍵を取り上げて箪笥を開けた。
「この鍵は音がしませんね」ホームズは言った。「あなたが目を覚まさなかったのも無理はない。宝冠が入っていたのは、おそらくこのケースのようですね。調べる必要があるな」ホームズはケースを開き、宝冠を取り出してテーブルの上に置いた。それは宝石職人の素晴らしい技術の結晶だった。36個の宝石は、これまでに見たことがない素晴らしいものだった。宝冠の一方の端が割れた状態になり、三個の宝石がついていたはずの部分は引きちぎられていた。
「さて、ホールダーさん」ホームズは言った。「ここが無残に無くなった部分に対応するもう一方の端です。ここを引きちぎってもらえますか?」
ホールダー氏は恐怖で後ずさりした。「そんなことできるわけありません」ホールダー氏は言った。
「それでは私が」ホームズは突然その部分に力を掛けて曲げようとしたが、びくともしなかった。「ちょっとたわんだ感じがありました」ホームズは言った。「しかし、私は指の力が特に強いのですが、これを壊すのは相当手間が掛かりそうです。普通の人間では無理ですね。ところで、もし私がこれを壊したら何が起きると思います、ホールダーさん?拳銃を撃ったような音がするはずです。ベッドから数ヤードと離れていない場所でそんな事が起きて、あなたは全然聞こえなかったとおっしゃるのですか?」
「どういうことか分かりません。皆目見当がつきません」
「しかし、おそらく調査で分かってくるでしょう。どう思います、メアリーさん?」
「実は私も伯父と同じように混乱しています」
「息子さんはあなたが見つけた時、靴も室内履きも履いていませんでしたね?」
「ズボンとシャツ以外は何も着ていませんでした」
「ありがとうございます。この調査は非常に幸運に恵まれました。もしこれで事件を綺麗に解決できなければ、完全にこちらの失敗になりますね。ホールダーさん、ちょっと失礼して、外の調査を続けたいと思います」
ホームズは不必要な足跡をつけると仕事が面倒になると説明し、誰も来ないようにと言い残して一人で出て行った。調査は一時間かそれ以上続いたが、とうとう足元を雪まみれにして、相変わらずの謎めいた表情で戻って来た。