その言葉で我々は全員振り返った。そこに、開いた扉の中に、背が高く美しい女性がいた、 ―― ブルームズベリーの謎の下宿人だった。彼女はゆっくりと近寄ってきた。顔は恐ろしい不安にこわばり真っ青で、目は硬直して動かなかった。恐怖に満ちた視線は床の上の暗い体に釘付けになっていた。
「あなたたちが殺したのね!」彼女はつぶやいた。「おお、神よ、あなたたちが彼を殺したのね!」その時彼女が鋭く息を吸う音が聞こえた。そして喜びの叫びを上げて彼女は飛び跳ねた。彼女は、手を叩きながら、黒い瞳に嬉しい驚きを輝かせて、部屋を何周も踊った。口からは、無数のイタリア語の歓喜の言葉が溢れ出た。このような女性がこのような場所で喜びに身もだえするというのは、見るも恐ろしく驚くべき光景だった。突然彼女は立ち止まり、問いただすような視線で我々をじっと見た。
「でもあなた達は!あなた達は警察でしょう?ジュセッペ・ゴルジアーノを殺したのはあなた達でしょう。そうじゃないの?」
「我々は警官です」
彼女は頭をめぐらせて部屋の暗闇を覗き込んだ。
「では、じゃあ、ジェナーロはどこ?」彼女は尋ねた。「ジェローナ・ルッカは私の夫です。私は、エミリア・ルッカ。二人ともニューヨークから来ました。ジェナーロはどこ?彼はさっき、この窓から私を呼びました。だから私は全力で走ってきました」
「呼んだのは私です」ホームズが言った。
「あなたが!どうやって私を呼べたのですか?」
「あなた方の暗号は難しくありませんでした。あなたにここに来てもらう必要があったのです。私がただ『来い』と明かりで信号を送りさえすれば、あなたはきっと来るだろうと分かっていました」
美しいイタリア女性は畏れを込めてホームズを見た。
「どうやってそれを知ったのかは理解できません」彼女が言った。「ジュセッペ・ゴルジアーノ、 ―― どうやって彼は…」彼女は口をつぐんだ。その後、突然彼女の顔が誇りと喜びに輝いた。「今分かったわ!私のジェナーロ!私の素晴らしい、美しいジェナーロ、すべての危害から私を安全に守ってくれた。彼がやったのね。彼がその強い手でこの怪物を殺したのね!おお、ジェナーロ、あなたはなんて素晴らしいの!どんな女が、こんな男性に値するのでしょう?」
「さて、ルッカ夫人」想像力に乏しいグレッグソンは、彼女がノッティングヒルの悪党であるかのようにほとんど感情を表さずに、袖に手を置いて言った。「私はあなたが誰で、何をしたのか良く分かっていません。しかしあなたの今のお話で十分、署にご同行いただかねばならない事がはっきりしました」
「ちょっと待ってくれ、グレッグソン」ホームズが言った。「この女性は、こっちが知りたい事を話したくてウズウズしているように見える。状況は理解できていますか?ご主人は逮捕され、ここに倒れている男の死に関して裁判にかけられます。あなたが話す事は何であれ証拠として採用されます。しかし、ご主人の動機が犯罪とは無関係で、彼もそれが公表される事を願っていると思うなら、私たちにすべて話す事が、ご主人にとって一番いいことです」
「あのゴルジアーノが死んだ今、もう何も恐れるものはありません」女性が言った。「あいつは悪魔で怪物でした。だからあの男を殺したという理由で私の夫を罰するような裁判官はこの世にいません」
「そうであれば」ホームズが言った。「この扉に鍵をかけて見つけたままにしておき、この女性と彼女の部屋まで行って、話を聞いてから、どうするか決めませんか」