コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「20分ほど僕は出来事を考えながらじっと座っていた。マスグレーヴはランタンを差し伸べて穴の中を覗き込みながら、まだ非常に青ざめた顔で立っていた」

「『チャールズ一世の硬貨がある』マスグレーヴは箱の中にあった何枚かを取り出して言った。『儀式書の年代の推定は正しかったな』」

「『他に、チャールズ一世の物が見つかるかもしれん』僕は儀式書の最初の二つの質問に対して突然有望な解釈が浮かんで、叫んだ。『君が沼から引き揚げた袋の中身を見せてくれ』」

「我々は書斎に上がって行った。そしてマルグレーヴは瓦礫を僕の前に置いた。僕がその瓦礫を見た時、マスグレーヴが大して重要でないと見なした理由が分かった。金属はほとんど真っ黒で、石は艶もなく鈍いものだった。しかし、僕がその一つを袖でこすってみると、手の平の窪みの影の中でキラキラと輝き始めた。金属は二重の輪に形作られていたが、元の形を留めないまでに折り曲げられ、ねじられていた」

「『君は覚えているはずだ』僕は言った。『王党派は王の死後も、イギリスで立ち向かっていた。王党派が最後に逃走する時、おそらくもっと平和な時になれば戻ってくるつもりで、沢山の非常に貴重な財産を埋めたのだろう』」

「『僕の祖先のサー・ラルフ・マスグレーヴは、重要な騎士で、チャールズ二世が放浪している最中に右腕だった男だ』マスグレーヴが言った」

「『ああ、なるほど!』僕は答えた。『これで、遂に追い求めてきた筋道の最後の一本が分かった。いささか悲劇的な方法だったが、君が非常に値打ちのある遺物を入手したことにおめでとうと言わなければならないな。しかし歴史的価値はそれよりさらに上だが』」

「『いったい何なんだ?』マスグレーヴは興奮してあえいだ」

「『古代イギリス王の王冠そのものだ』」

「『王冠!』」

「『その通りだ。儀式書が言っていたことを考えてみよう。どう言っていたか?《それは誰のものか?》《去りし人の物》これはチャールズ一世の処刑を暗示している。それから、《だれがそれを持つべきか?》《来るべき人だ》これはチャールズ二世だ。彼の誕生はすでに予見されていた。僕の考えでは、このひしゃげて型崩れした王冠が、かつてスチュワート王家の額の周りにあったことは間違いない』」

「『どうしてそれが池の中にあったんだ?』」

「『ああ、それを答えるにはちょっと時間がかかるな』僕は自分が組み立てた推理と証拠の長い連鎖について、その概要をマスグレーヴに説明した。僕が話終えた頃には、黄昏時は過ぎ、空に月が明るく輝いていた」

「『ところで、チャールズ二世が戻って来た時、なぜ王冠を受け取らなかったんだ?』マスグレーヴは遺物を麻袋に戻しながら尋ねた」

「『ああ、それは決して答えられない質問の一つだ。おそらくそれまでの間に秘密を握っていたマスグレーヴが亡くなり、何らかの手落ちで、その手がかりは意味が解説されないまま子孫に遺された。その日から今日まで父から子へと伝えられ、とうとうその秘密を暴く男ブラントンの手に渡り、この事件でその命が失われるに至ったのだ』」

「これが、マスグレーヴ家の儀式事件だ、ワトソン。その王冠はハールストンに保管されている。法的な手続きに面倒な点があり、彼らがその保持を許されるには大変な費用がかかった。もし僕の名前を言えば、きっと喜んで君にそれを見せてくれるだろう。レイチェルに関しては何の消息もなかった。おそらく彼女はイギリスを去り、罪の意識を抱いたままどこか海外の国に行ったのだろう」