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ジョナサン・スモールの奇妙な話 6 | ジョナサン・スモールの奇妙な話 7 ![]() |
「雨は未だに絶え間なく降っていた。雨季が始まったばかりだったからだ。褐色の厚い雲が空を流されていた。石を投げて届くくらいの距離より先はほとんど何も見えなかった。我々の扉の前には深い堀があったが、水は所々ほとんど干上がっていて、簡単に横切る事ができた。この二人の荒々しいシーク教徒と一緒にここに立ち、自分の死に近づきつつある男を待ち構えるのは、俺にとって不思議な感覚だった」
「突然、堀の向こう側に、覆いをかけたランタンの輝きが見えた。光は土の小山の間に隠れて消えたが、もう一度現れてゆっくりとこっちに向かってきた」
「『来たぞ!』俺は叫んだ」
「『旦那、いつもどおり尋問してくれ』アブドーラがささやいた。『怖がらせないようにな。俺たちに彼を中まで通させてくれ。旦那はここで見張っていてくれ。後は、俺たちがやる。ランタンの覆いをとれるように準備していてくれ。本当にあの男かどうか、俺たちで確認したい』」
「チラチラする光が止まったり進んだりしながら近づき、暗い人影が二つ、掘の向こう側に見えてきた。二人が傾斜した土手を駆け降り、水しぶきを上げながらぬかるみを渡り、門の少し手前まで来た時、俺は初めて声をかけた」
「『誰だ、どこへ行く?』俺は押し殺した声で言った」
「『敵ではありません』返事があった。俺はランタンの覆いをとり彼らに明るい光を浴びせた。最初の男は巨大なシーク教徒で、黒い顎鬚がほとんど腰帯のところまで垂れ下がっていた。見世物をのぞいては、おれはこんなに背の高い男は見たことがなかった。もう一人は大きな黄色いターバンとショールに身を包み、巻き包みを持った、背の低い太った丸い男だった。彼は恐怖で全身が震えているようだった。手はマラリアにかかったかのようにぴくぴく動き、小さな目はギラギラ光り、頭は穴から思い切って出ようとしているネズミのようにずっと左右に揺れていた。この男を殺すと考えると、俺はぞっとした。しかし俺は財宝のことを考え、火打石のように堅く決心した。白人の俺を見た時、彼は喜んでさえずるような声を上げ、こっちに向かって駆け上がってきた」
「『かくまって下さい、旦那』男は息も絶え絶えにこう言った。『不幸な商人アクメットをかくまって下さい。ラージプータナを越え、アグラの砦で保護してもらえるかもしれないと思って、ここまで来ました。私は東インド会社の味方をしたために、財産を奪われ、打たれ、虐待されました。今夜は私がもう一度安全な場所に来た、幸運な夜です、・・・・・私と僅かな財産にとって』」
『その包みの中は何だ?』俺は尋ねた」
「『鉄の箱です』彼は答えた。『家族関係のものが一、二入っています。これは他人には価値がありませんが、私には貴重なものです。しかし私は物乞いではありません。ですから、もし願いを聞き入れていただいて、私を避難させてもらえれば謝礼は差し上げます。旦那にも、旦那の上司にも』」
「俺はこれ以上この男と話す自信がなかった。怯えた丸い顔を見れば見るほど、この男を平然と殺すのが難しく思えてきた。シーク教徒二人に引き渡すのが一番だった」
「『彼を中央警備まで連れて行け』俺は言った。二人のシーク教徒が両側にピッタリとつき、背の高い男がすぐ後ろついて、暗い通路を進んで行った。これ以上、死に取り囲まれた男はいなかった。俺はランタンを持って門のところに残った」
「俺は、人気のない廊下に響く規則正しい足音を聞いていた。突然足音が止まり、誰かの声と格闘する音が聞こえた。一瞬の後、恐ろしい事に、人が走る荒々しい息づかいと共に、猛烈な勢いでこっちに向かって来る足音が聞こえてきた。俺はランタンを真っ直ぐな長い廊下に向けた。そこに、顔中血まみれで、風のように走っている太った男がいた。そして彼のすぐ後ろから、黒髭の大きなシーク教徒が、手に持ったナイフを光らせて虎のように襲い掛かっていた。この小さな商人よりも速く走る男は見たことがない。彼はシーク教徒をどんどん引き離していた。そして俺の脇を通り過ぎて外に出れば、逃げおおせるだろうと分かった。俺はこの男が気の毒になったが、財宝のことを考えると、決心は揺らがず、残酷な気持ちになった。小男が走って通り過ぎようとした時、俺は銃を足の間に投げた。男は弾が当たったウサギのように、二回も転がった。立ち上がる暇も与えず、シーク教徒がまたがって脇腹を二度ナイフで刺した。男は唸り声も出さず、ぴくりとも動かず、ただ倒れた場所に横たわっていた。俺は倒れた時に首の骨を折ったのかもしれないと思った。さあ、これで俺が約束通りに話している事が分かるだろう。俺とって不利なことも有利なことも、すべて正確に起きたとおり話しているんだ」
彼は話を止め、ホームズが用意していたウィスキーの水割りに手錠をかけられた手を伸ばした。実はこの時、私はこの男が本当に恐ろしい気になっていた。冷酷な殺人に関与したというだけではなく、それ以上に、どこかぞんざいで無頓着な話しぶりにぞっとしたのだ。彼がどんな罰を受けるにしても、私は同情する事はないだろうと思った。シャーロックホームズとジョーンズは、両手を膝に置いて座り、この話に聞き入っていた。しかし顔には、私と同じように嫌悪感が浮かんでいた。彼はそれに気づいたかもしれない。彼が話を再開した時、声や態度に挑戦的な様子があったからだ。
「もちろん、これは非常に悪い事だがな」彼は言った。「俺は知りたいもんだ。俺と同じ立場に立たされ、抵抗しても喉を切られるだけだという時に、どれくらいの人間が、この略奪品の分け前を拒否するのか。それに、砦の中にあの商人を入れた以上、どちらかは死ななければならない。もし奴が脱出できていれば、全ての出来事が表沙汰になり、おそらく俺は軍法会議にかけられて銃殺だ。こんな時、人間はそう寛大にはなれるもんじゃない」
「話を続けろ」ホームズは素っ気なく言った。
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