コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「『北の州に、領地は小さいが非常に豊かなラジャがいる。父親から非常に多くの財産を受け継ぎ、自分でさらにそれを増やした。このラジャはけちな性分で、使うよりも富を貯め込む方だった。この騒乱が起きた時、彼はライオンともトラとも友達になろうとした、 ―― つまりインド兵とも東インド会社ともだ。しかしすぐに、このラジャは白人支配の日は終わったのではないかと思った。国中で白人が殺されたり負かされたりする話しか聞かなかったからだ。しかし、彼は慎重な男だったので、どっちに転んでも、少なくとも財宝の半分が手元に残る計画を立てた。その計画とはこうだ。金と銀は宮殿の金庫室に置いておくが、非常に高価な宝石と最高級の真珠を鉄の箱に入れ、信頼できる召使に渡す。この召使は商人の振りをして、それをアグラの砦に持って行き、国が平和になるまでそこに置いておく。このようにすれば、反乱兵が勝てば彼には金が残り、東インド会社が勝てば宝石が彼の手に残る事になる。溜め込んだ財宝をこのように分割してから、彼の周辺では反乱軍が強かったので、そちらに味方をした。いいですか、旦那、こんなことをする奴の財産など、自分たちの信念に従って戦っている人間のものになっても構わないでしょう』」

「『この商人の振りをしている男は、アクメットという名前で旅をしている。今アグラ市にいて、この砦に入りたいと思っている。彼が一緒に旅をしているのが俺の乳兄弟のドスト・アクバルで、この秘密を知っている。ドスト・アクバルは今夜砦の横の扉から彼を引き入れると約束し、この門にやって来る。まもなくここに来て、マホメット・シンと俺が待ち受けているのを見つけるだろう。この場所は孤立しているし、彼がここに来るのは誰も知らない。商人アクメットのことは、これ以上人の知るところにはならないが、素晴らしいラジャの財宝は我々が山分けする。この話をどう思う、旦那?』」

「ウースターシャーでは、人の命は偉大で神聖なものに見えた。しかし砲火と血があたり一面にあり、どの街角を曲がっても死体を目にするような状況では、事情が全く違う。アクメットという商人が生きるか死ぬかは、俺にとって空気のように軽く思えた。しかし、財宝の話は魅力的だった。俺はこう考えた。その財宝を故郷に持って帰ったらどうしてやろうか。土地の人間は、モイドール金貨でポケットを一杯にして帰ってきたろくでなしを見た時、どんな顔をすることか。こういうわけで、俺の腹は既に決まっていた。しかし、アブドーラ・カーンは、俺がためらっていると思ったらしく、さらに熱心に勧めてきた」

「『良く考えてみろ、旦那』彼は言った。『もしこの男が司令官に捕まれば、彼は絞首刑か銃殺になり、宝石は政府に没収される。そしてそれで一ルピーにもなる奴はいない。今、俺たちがその男を捕まえるのだから、その後の事も俺たちが同じようにやってもいいじゃないか?この宝石は、俺たちが持っていても東インド会社の金庫にあってもいいじゃないか。財宝の価値は、俺たち全員が大金持ちの王様になれる位は十分にある。ここは他の人間からかなり離れているから、ばれる事は絶対ない。これ以上理想的な状況があるか?それでは、もう一度言ってくれ。旦那、俺たちの仲間になるか、それとも俺たちと敵対するか』」

「『心から仲間となる』俺は言った」

「『それは良かった』彼は俺の銃を返しながら答えた。『俺たちは旦那を信用する。旦那の約束は、俺たちと同じように、決して破られない。後は兄弟と商人を待つだけだ』」

「『それじゃ、お前の兄弟は何が起きるかを知っているのか?』俺は尋ねた」

「『この計画は彼が立てた。彼が考え出したんだ。門の所に行って、マホメット・シンと一緒に見張りをしよう』」