コンプリート・シャーロック・ホームズ
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沼地に囲まれた島では、彼の活動の痕跡が数多く見つかった。彼はここに獰猛な犬を隠していたのだ。遺棄された鉱山跡に、大きな動輪とガラクタに半分埋もれた縦坑が残っていた。その脇に崩れ落ちた鉱山夫の住居跡があった。きっと周りを取り囲む沼の悪臭で遺棄されたのだろう。その一軒の中に、かじられた多量の骨と共にカスガイと鎖があり、あの犬が閉じ込められていた場所が分かった。ゴミの中に、もつれた茶色の毛がこびりついている頭蓋骨が落ちていた。

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「犬だ!」ホームズが言った。「なんと、巻き毛のスパニエルだ。かわいそうにモーティマーはペットと再会できないな。この場所には、もう我々の知らない秘密が隠されているとは思えないな。犬の姿はここに隠せたが、声はどうしようもなかったから、昼間聞いてもぞっとする吠え声が聞こえてきたのだ。緊急時には、メリピットの納屋に犬を置いていたかもしれないが、それには、常に危険が伴なう。したがって、わざわざ犬を運んできたのは、自分の苦労が報われそうな、重大な局面を迎えた日だけだったはずだ。この缶の中の糊のようなものは間違いなくあの犬に塗った蛍光の調合剤だ。もちろん、これはバスカヴィル家の悪魔犬の話からヒントを得て、老サー・チャールズを恐怖で死に追いやりたいという執念が生み出した怪物だ。あの哀れな囚人が悲鳴を上げて逃げたのも無理はない。サー・ヘンリーでさえ、 ―― 我々だって同じだったかもしれない ―― 、あんな生き物が荒野の暗闇を飛び跳ねながら自分を追ってくるのを見た時は、他に何もできなかった。これは巧妙な計略だ。狙った獲物を殺せるというチャンスは別にしても、こんな生き物を見かけた時、 ―― 実際多くの人間が目撃した ―― 、どんな農夫があえて荒野に行って調べてみようとするだろうか?ワトソン、僕はこれをロンドンで言ったが、今もう一度言おう。我々が逮捕の手助けをした人間の中で、一番危険な男は、今あそこに沈んでいる男だ」彼は長い腕を、緑の染みでまだらになった広大な沼に向かって振った。それは、はるか彼方まで伸び、遠くでゆっくりと小豆色をした荒野の斜面へと変わっていた。

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