コンプリート・シャーロック・ホームズ
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その夜、ユニオン・ハウスの支部室では盛大な酒宴が催された。この酒宴を催した理由は、クロー・ヒル鉱山の経営者と技術者の殺害だけではなかった。もちろん、この殺害によって、バーミッサ谷で恐喝され、恐怖に怯える会社がまた一つ増えたわけだが、それに加えて、支部自身の手によってはるか離れた場所で達成された勝利があった。

どうやら、こういう事情らしかった。地区代表がバーミッサを襲撃するために5人の有能な男達を派遣した時、彼はそのお返しとして、ステイク・ロイヤルのウィリアム・ヘイルズを殺すために、バーミッサの男達を内密に選定するように要求したのだ。ウィリアム・ヘイルズは、ギルマートン地方で、最も有名で評判の高い鉱山主の一人であり、あらゆる方面で理想的な雇用主だったため、世界に敵はいないものと思われていた。しかし彼は仕事の効率性に固執した。そのため、ある酒飲みと怠け者の労働者を解雇した。彼らはこの全能なる組織の一員だったのだ。扉の外に命を狙う通告が下げられても彼の決意は揺るがなかった。こうして、ここ自由の文明国で、彼に死刑が宣告されることになった。

死刑は正式に執行された。支部長の横の上座でふんぞりかえっていたテッド・ボールドウィンが、暗殺隊の長を務めた。赤ら顔とどんよりした血走った目から、彼は睡眠不足で酒に酔っていることが分かった。彼と二人の同志は、前夜山岳地方で夜明かしをしていた。彼らの服装は乱れ、雨にうたれていた。しかし決死的行動から戻ってきたどんな英雄であっても、これ以上同僚から暖かい歓迎を受ける事はなかっただろう。

この話は歓喜の雄叫びと、爆笑を交えながら、繰り返し繰り返し語られた。彼らは馬が並足になるに違いない急な丘の頂上に陣取り、標的が夜更けに家に帰るところを待ち構えていた。ウィリアム・ヘイルズは寒さをしのぐために分厚く着込んでいたので、拳銃に手をかける事が出来なかった。襲撃隊は彼を引きずり出して何度も何度も撃った。彼は命乞いの叫びをあげた。その叫び声は支部での余興として、繰り返し真似された。

「あいつの叫び声をもう一度聞かせろ」彼らは叫んだ。

殺害した男を知っている者は誰もいなかった。しかし殺害には無限のドラマがある。そして彼らはギルマートンのスカウラーズにバーミッサの男達は頼りがいがあると示したのだ。

ひとつ、まずい事態が起きていた。彼らがまだ動かなくなった死体に拳銃を打ち込んでいる時、一人の男が妻と一緒に馬車で通りかかった。この夫婦も撃ち殺そうという提案があった。しかし彼らは無害な住民で炭鉱とは何の関係もなかった。このため、この夫婦は、襲撃者たちから、馬車を止めずに進んで何も言うな、そうしないとどうなるか分からんぞ、とさんざん脅されただけで済んだ。血まみれの死体は、非情な雇用主全員に対する警告として残された。そして三人の気高い復讐者達は、山岳地帯 ―― 手付かずの自然が降りてきて、粉炭とボタ山と交わる場所 ―― へと急いで逃げた。彼らは今、傷一つなく使命を見事に果たし、同僚の拍手を聞きながらここに戻っていた。