コンプリート・シャーロック・ホームズ
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客人がこれほど隠しているにも拘わらず、スキャンランとマクマードは彼らが言うところの「娯楽」の現場を見ようと固く決心していた。マクマードは、ある朝早く彼らがこっそりと階段を降りていく音を聞きつけ、スキャンランを起こし、二人とも急いで服を着た。スキャンランとマクマードが服を着終わった時、刺客は扉を開けたままそっと出て行ったのが分かった。まだ夜は明けていなかったが、ランプの光で二人の男が通りの向こうにいるのが見えた。彼らは深い雪の中、足音を立てないよう慎重に後をつけた。

下宿屋は町の境界近くにあった。そしてすぐに彼らはその境界を越える十字路に差し掛かった。そこで三人の男が待っており、その三人とローラーとアンドリューは短い間だったが、真剣に話し合った。その後、彼らは一緒に歩いていった。明らかに人手が必要な重要な仕事だった。この地点から、様々な鉱山へ繋がる小道があった。男達が選んだのはクロー・ヒルに続く道だった。そこは、非常に強い結束力を誇る大きな鉱山だった。ジョシア・H・ダンという、活動的で恐れを知らぬニュー・イングランドの経営者のおかげで、長い恐怖の治世下でも一定の秩序と規律が保たれていた。

夜が明けかけていた。そして作業者達は黒い道を一列になってゆっくりと歩いていた。単独で歩く者も、グループになる者もいた。

マクマードとスキャンランは後をつけている男達を見失わないようにしながら、ゆっくりと彼らについていった。濃霧がかかっていた。その中から、突然汽笛の大きな音がとどろいた。それは昇降台が下ろされる十分前の合図で、一日の仕事が始まる号令でもあった。

彼らが坑道を取り囲む広場に着いた時、100人の炭鉱夫が待っていた。身を切るように寒かったので、炭鉱夫たちは足踏みをし、指に息を掛けていた。暗殺者達は機関室の下の影の中に集まって立っていた。スキャンランとマクマードは鉱滓のボタ山に登った。そこから前方を眺めると、あたり全体が見渡せた。メンジーズという名前の顎鬚を生やした大きなスコットランド人炭鉱技術者が、昇降台を下ろすために機関室から出てきて笛を吹くのが見えた。

髭を剃り、熱心な顔つきをした、背の高いしまりのない体格の青年が、それと同時に勢いよく立坑の入り口に進んだ。彼が前に出た時、機関室の下に無言でじっと立っている男達が目にとまった。男達は帽子を下げ襟を立て、顔を隠していた。一瞬、彼の心に生命の危険がよぎった。次の瞬間、彼はそれを振り払い、侵入してきた外部者に対する自分の職務だけを考えようとした。

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「お前達は何者だ?」彼は近づいて尋ねた。「何のためにそんなところにたむろしている?」

返事はなかった。かわりにアンドリューが歩み出て、彼の腹部を撃った。待っていた百人の炭鉱夫は、まるで凍りついたように身じろぎもせず呆然と立っていた。経営者は両手で傷口を押さえ、前のめりになった。その後、彼はよろめきながら逃げた。しかし別の暗殺者が発砲した。彼は横倒しになり、燃え殻の山の中で手足をばたばたとさせた。スコットランド男のメンジーズは、この光景を見て怒りの唸り声を上げ、鉄のスパナを持って殺人者達に襲い掛かった。しかし彼は顔に二発の銃弾を受け、暗殺者たちの足元に倒れて死んだ。

炭鉱夫の何人かが前に押し寄せ、悲しみと怒りの言葉にならない叫びが起きた。しかし二人の殺人者が、群集の頭上に六連発銃が空になるまで発砲すると、彼らは崩れて逃げ去った。バーミッサの自分達の家まで必死で走って逃げ帰った者もいた。

勇気ある者が何人か集合して採掘抗に戻ってきた時、殺人集団は朝の霧の中に消え去っていた。目撃者の誰一人として、百人の人間の眼前でこの二つの犯罪を行った犯人の顔を特定する事が出来なかった。

スキャンランとマクマードは帰途についた。スキャンランは少し圧倒されていた。彼が自分の目で目撃した最初の殺人だったからだ。彼らが信じさせられていたものよりも楽しいものではなかった。彼らが町へ急いでいる時、殺された経営者の妻の恐ろしい叫び声が後ろから聞こえた。マクマードは物思いに耽り黙っていたが、スキャンランが怖気づいたのには共感を示さなかった。

「これは戦争みたいなものだ」彼は繰り返した。「俺たちと彼らの間の戦争じゃなくてなんだ。俺たちはできる限りの反攻をするのだ」