コンプリート・シャーロック・ホームズ
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突然扉が開き、偉そうな態度の若い男が肩で風を切って入ってきた。顔立ちの整った威勢のいい青年で、年も背格好もマクマードとほぼ同じだった。目は獰猛で横柄、鼻は鷹のクチバシのように尖っていた。彼は広いツバの黒いフェルト帽を脱ごうともせず、ストーブの側に座っていた二人を無作法に睨んだ。

エティは、ギクリとした様子で、慌てふためいて立ち上がった。「ようこそいらっしゃいました、ボールドウィンさん」彼女は言った。「思ったより早かったんですね。こちらにお座りください」

ボールドウィンは手を腰に当ててマクマードを見ていた。「誰だこいつは?」彼はぶっきらぼうに言った。

「最近ここの住人となった友人です、ボールドウィンさん。マクマードさんです。こちらは、ボールドウィンさんです」

二人の青年は不機嫌そうに軽い会釈を交わした。

「多分、エティが俺たちのことを話していると思うが?」ボールドウィンが言った。

「二人の間に何か関係があるとは聞いてないな」

「聞いてない?じゃあ、今ここで察しをつけろ。この女は俺のものだということだ。分かったら散歩にでも行ってろ」

「ありがとう。散歩する気分じゃなくてね」

「気分じゃないだと?」男の獰猛な目が怒りに燃えた。「もしかするとやる気か、この下宿人野郎!」

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「その通りだ!」マクマードがぱっと立ち上がって叫んだ。「その言葉を待ってたぞ」

「お願いだから、ジャック、ああ、お願いだから!」哀れにも取り乱したエティは叫んだ。「ああ、ジャック、ジャック、怪我をするわ!」

「ああ、ジャックだと?」ボールドウィンは罵った。「もうそんな仲なのか?」

「ああ、テッド、聞き分けて、 ―― 私のために、優しくして。テッド、もし私の事が一度でも好きだったのなら、大きな気持ちで許して!」

「エティ、俺達を放っておいてくれたら、決着をつけられるんだがな」マクマードは静かに言った。「でなきゃ、ボールドウィンさん、俺と一緒にちょっと表に出るか。今夜はいい天気だ。次の区画の向こうにちょっとした空き地がある」

「俺の手を汚さずにこの落とし前はつけてやる」ボールドウィンは言った。「俺がお前を始末する前に、お前はこの家の敷居をまたがなければ良かったと思うだろう!」

「今がその時だ!」マクマードは叫んだ。

「時期は俺が決める。俺に任せておけばいいさ。これを見ろ!」彼は突然袖をまくりあげ、焼印が押されたような前腕の奇妙な印を見せた。丸の中に三角があった。「どういう意味か知ってるか?」

「知らんし、興味もないな!」

「まあ、そのうち分かるだろう。間違いなくな。お前はそう長生きは出来そうもないな。多分、エティがお前に何か話してくれるだろう。お前だが、エティ、ひざまずいて戻ってくる事になるだろう、 ―― 聞いてるのか? ―― ひざまずいてな ―― 、そうしたら俺がお前の罰を教えてやる。お前が巻いた種だ、 ―― 天の裁きは、お前の当然の報いだろうよ!」彼は二人を怒りの目で一瞥した。それから彼は背中を向け、その直後、叩きつけるように扉が閉められた。

少しの間マクマードとエティは黙って立っていた。そして彼女は彼に抱きついた。

「ああ、ジャック、なんて勇気があるの!でも何にもならないわ、逃げなくちゃ!今夜、ジャック、今夜!それしかない。あいつはあなたの命を奪う。あの恐ろしい目がそう言っていた。あいつら12人を相手にして勝ち目がある?マギンティ支部長と支部全員の力が後ろに控えているのよ」

マクマードは彼女の手を解き、キスし、優しく椅子に押し返した。「そこにいるんだ、エティ、俺のことで動揺したり恐がったりするな。俺も民団員なんだ。お前の親父にそう言ってきた。俺もあいつらと同じかも知らんな。だから俺をそんなにいい人間と思わんでくれ。もしかすると俺のことも嫌いになるかもな。俺はお前にしゃべりすぎた」

「嫌いになる、ジャック?生きている限り絶対そんなことはないわ!この場所以外では、自由民団でも悪事はしないと聞いているのに、なぜあなたを悪く思うの?でも、もしあなたが自由民団なら、ジャック、出かけて行ってマギンティ支部長と親しくなって。ああ、急いで、ジャック、急いで!先に話を通しておかないと、追手がやってくるわ」

「俺も同じ事を考えていたんだ」マクマードは言った。「すぐに行って話しをつけよう。親父に、今晩はここに泊まるが、朝になればどこか別の部屋を探すと言っておいてくれ」