コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「もちろん、私はすぐに待合室に駆け込みました。息子も消えていました。玄関の扉は半開きでした。患者を招き入れたボーイは新人で、全く気が利きませんでした。ボーイは階下で待っていて、私が診察室のベルを鳴らすと患者を送り出すために駆け上がって来ます、ボーイは何も聞いていませんでした。そしてこの出来事は完全に謎のままでした。その直後にブレッシントンさんが短い散歩から帰って来ました。しかし私はこの件について彼には何も話しませんでした。実を言うと、ここ最近は出来るだけ彼とは話をしないようにしていたのです」

「私はあのロシア人患者とその息子に再び会うとは夢にも思いませんでした。ですから、今晩まさに前と同じ時刻に、前回のように二人が診療室に入って来た時の私の驚きをご想像いただけるでしょう」

「『昨日あんなに突然帰ってしまって、本当に申し訳ありません、先生』患者は言いました」

「『正直言うと、非常に驚きましたよ』私は言いました」

「『実はですね』患者は言いました。『私は発作から回復した時、何時もそれまでのことが思い出せなくなるのです。私は見知らぬ部屋で、 ―― 私にはそう見えました ―― 、目が覚め、先生が出掛けている時に朦朧とした状態で通りに出ました』」

「『私は』息子が言いました。『父が待合室の扉を通るのを見て、当然診察が終わったと思いました。私たちが家に着くまで、何が起きたのか本当の事に気付きませんでした』」

「『そうですか』私は笑って言いました。『私をすごく混乱させた以外には何も危害は加えていません。それでは息子さんは待合室に行って頂いて、あのように突然中断された診察の続きができれば幸いです』」

「私は患者の症状を30分程話し合い、それから処方箋を書き、息子の手を貸りて出て行くところを見送りました」

「すでにお話したとおり、ブレッシントンさんは一日のうちで大抵この時刻に散歩をしていました。彼はこのすぐ後に戻って来て上階に行きました。次の瞬間、彼が駆け下りて来る音が聞こえ、うろたえて気が狂ったように診察室に飛び込んで来ました」

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「『誰が私の部屋に入ったのだ?』ブレッシントンさんは叫びました」

「『誰も入っていません』私は言いました」

「『嘘だ!』彼は叫びました。『上がって来て見ろ!』」

「ブレッシントンさんは恐怖で半分気がおかしくなっているように見えましたので、乱暴な言い方はとがめませんでした。私が一緒に上の階に行った時、彼は明るい色の絨毯の上にあるいくつかの足跡を指差しました」

「『これが私の足跡だとでも言うのか?』彼は叫びました」

「それは明らかにブレッシントンさんの足跡よりも、はるかに大きなものでした。そして明らかに極めて新しいものでした。ご存知のとおり、今日は午後から強い雨がありました。そして、やって来たのはあの患者だけでした。ということは、待合室にいた息子が、私が患者にかかりっきりになっている間に何らかの理由でブレッシントンさんの部屋へ上がって行ったに違いありません。何も荒らされたり、持ち出されたものはありませんでした。しかし足跡がありましたので、誰かが忍び込んだのは間違いのない事実です」

「もちろんこれにはどんな人間でも、心の平穏を乱されたでしょうが、ブレッシントンさんは、考えられないほど激しく興奮しているようでした。彼は安楽椅子に座って本当に泣き叫んでいました。そして彼に筋道立てて話すことはほとんど出来ませんでした。ブレッシントンさんは、私があなたのところに行くようにと提案しました。もちろん私もすぐにそれが適切な判断だと思いました。彼が深く考えすぎているようだとは言え、非常に奇妙な出来事だったからです。私の馬車で一緒に来ていただければ、少なくともブレッシントンさんは安心するでしょう。もちろん、ホームズさんがこの変わった出来事に説明がつけられるとまでは望んでいませんが」