一時間半経って、フォレスター警部が一人で戻って来た。
「ホームズさんは戸外の現場を歩き回っています」フォレスター警部は言った。「彼は、私たち四人で家まで行きたいと言っています」
「カニングハムさんのお宅へ?」
「そうです」
「何のために?」
フォレスター警部は肩をすぼめた。「よく分かりませんね。ここだけの話ですが、私はホームズさんの病気が完全には治っていないと思います。奇妙な行動をとっていて、非常に興奮しています」
「驚く必要は無いと思いますよ」私は言った。「大抵の場合、ホームズのおかしな行動には何らかの理由がありました」
「理由の中に何かおかしな部分があると思う人がいるかもしれませんね」フォレスター警部は小声で言った。「しかしホームズさんは行動を起こしたくてウズウズしています、大佐。ですから、準備が出来ていればすぐ出掛けるのが一番良いでしょう」
ホームズはうつむいて、両手をズボンのポケットに突っ込み、現場を行ったり来たりしていた。
「この事件はどんどん面白くなってきた」ホームズは言った。「ワトソン、この田舎への旅行は特に成功だった。素晴らしい朝になったよ」
「事件現場に行って来たと聞きましたが」ヘイター大佐は言った。
「ええ、フォレスター警部と一緒に極めて興味深い調査をしました」
「何か成果が?」
「ええ、非常に興味深い発見がありました。歩きながらお話しましょう。まず最初に、犠牲者の死体を検分しました。聞いていたとおり、拳銃の傷が致命傷でした」
「それ自体を疑っていたのですか?」
「まあ、何でも確認するに越したことはありませんからね。調査は無駄にはなりませんでした。それからカニングハム親子にお話を伺いました。二人は殺人犯が逃げる際、庭の生垣のどこを突破したか、正確に示す事ができました。これは非常に興味深いものでした」
「そうでしょうね」
「それからウィリアム・カーワンの母に会いに行きました。しかし、非常に高齢で弱っているので、何も情報を得られませんでした」
「それであなたの調査の結論は何ですか?」
「この犯罪は非常に奇妙なものだということです。おそらくこれからの訪問で、もう少しはっきりするかもしれません。フォレスター警部、あなたも同意見だと思いますが、被害者ウィリアムの手にあった紙片は、彼が死んだまさにその時刻が書かれているので、非常に重要なものです」
「ここから何かが出てくるはずです、ホームズさん」
「間違いなくそうだ。この手紙を書いた人物が、あんな時間にウィリアム・カーマンを寝室から呼び出した。しかし、紙の残りの部分はどこに行ったんだろう?」
「見つからないかと思って地面を慎重に探したのですが」フォレスター警部は言った。
「その手紙は被害者の手から引きちぎられた。なぜ犯人はそれを欲しがったのか。自分を有罪にする証拠だからだ。そしてそれをどうしただろうか?ポケットの中に突っ込んだはずだ。死体の手の中に切れ端が残ったことに気付かなかったというのは、大いにありえる。もしその紙の残りを入手できれば、この謎が解決に向かって大きく前進することは明らかだ」
「そうでしょうが、犯人を捕まえる前にどうやって犯人のポケットを探ることができますか?」
「まあ、考えてみる価値はあるだろう。それからもう一つ明らかな点がある。手紙をウィリアムに届けたのは第三者だ。書いた人間がその手紙を直接手渡したはずはない。それが出来るならもちろん、口頭で自分の用件を伝えたはずだ。では手紙を届けたのは誰か?もしかすると、郵便で送られたのか?」
「すでに調査しました」フォレスター警部は言った。「ウィリアムは昨日午後の郵便で手紙を一通受け取っています。封筒は彼に燃やされていました」
「素晴らしい!」ホームズはフォレスター警部の背を叩きながら叫んだ。「君は郵便配達人に会ったんだな。君と仕事が出来るのは楽しい。さあ、あれが被害に遭った家です。一緒に来てください、大佐、犯罪現場を案内しましょう」