テーブルの準備が出来て、私がベルを鳴らそうとした時、ハドソン夫人が紅茶とコーヒーを持って入ってきた。数分後、彼女はフードをかぶせた朝食を三つ運んできた。そして私たちは全員テーブルについた。ホームズは空腹で、私は興味津々で、フェルプスは落ち込んでがっくりしていた。
「ハドソンさんは機転が利くね」ホームズがカレー味チキンの皿の覆いを取って言った。「彼女の食事はそれほど種類は多くないが、スコットランド女性みたいに朝食の工夫がいい。君は何だ?ワトソン」
「ハムエッグだ」私は答えた。
「そりゃいい!何を食べますか、フェルプスさん、 ―― カレーのチキンですか卵ですか、それとも自分のを?」
「ありがとうございます。何も食べられません」フェルプスは言った。
「まぁ、そうおっしゃらずに!目の前の料理を食べてみましょう」
「ありがとうございます。本当に無理です」
「そうですか、それでは」ホームズはいたずらっぽくクスクス笑って言った。「私がそれを頂いても構わないでしょうね?」
フェルプスは覆いを持ち上げた。その時、彼は見つめている皿と同じような真っ白い顔で悲鳴を上げた。皿の真中に、小さな青灰色の巻物が置かれていた。彼はそれを取り上げ、食い入るように見つめると胸に押し付け、喜びに金切り声を上げながら狂ったように部屋中跳ね回った。その後彼は自分の興奮に足が立たなくなり、疲れきって安楽椅子にへたり込んだ。彼が気を失わないように、ブランデーを飲ませる必要があった。
「まぁ、まぁ!」ホームズは彼の肩を軽く叩きながらなだめるように言った。「こんな風に驚かせて申し訳ない。しかしこちらのワトソンが知っているとおり、僕は劇的なことをしてみたいという発作を押さえられないのです」
フェルプスは彼の手をつかんでキスした。「ありがとうございます!」彼は叫んだ。「あなたは私の名誉を救ってくれました」
「いいですか、私の名誉も危機にさらされていたんですよ」ホームズは言った。「事件をしくじるというのは、あなたが任務で失敗するのと同じように、私にとっても忌まわしいことです」
フェルプスはこの貴重な文書を上着の一番奥のポケットに突っ込んだ。
「これ以上朝食の邪魔をするつもりはありません。それでも、この書類がどこにあってどうやって取り返したか聞きたくてたまりませんが」
シャーロックホームズはコーヒーを飲み、ハムエッグに取り掛かった。それから立ち上がると、パイプに火をつけ、自分の椅子に座った。
「私が最初にしたことをお話しましょう。それから次にどうしたかを」彼は言った。「あなたと駅で別れた後、私はサリー州の美しい景色を楽しく歩いてリプリーという名前の小さな村まで行きました。そこの宿で私はお茶を飲み、念のため水筒を一杯にし、ポケットにサンドイッチを一袋を入れました。夜になるまでそこにいて、その後私はウォーキングへもう一度出かけました。そしてちょうど日没後、私はブライアブレーの外を通る幹線道路に着きました」
「私は道に誰もいなくなるまで待ちました、 ―― いつでもそれほど人は通っていないと思いましたが ―― 、それから私は柵を攀じ登って敷地に入りました」
「門は開いていたでしょうに!」フェルプスは叫んだ。
「えぇ、しかし私はこういう事をするのに好みがうるさい方で。私は三本の樅の木が立っている場所を選びました。そしてその陰に隠れて、私は家の人間から見られる危険を全く冒さずに近づきました。私は反対側の茂みの中をかがんで行き、そこから先は這って、 ―― 私のズボンのみっともない状態を見てください ―― 、あなたの寝室のすぐ側の石楠花の茂みにまで行きました。そこで私はしゃがんで成り行きを見守りました」
「あなたの部屋の鎧戸は閉まっていませんでしたので、ハリソン嬢がそこに座ってテーブルの側で本を読んでいるのが見えました。彼女が本を閉じ雨戸を閉め、そして下がったのは十時十五分でした」
「彼女が扉を閉じる音が聞こえ、確かに鍵を掛けたように感じました」
「鍵を!」フェルプスは叫んだ。
「そうです。私はハリソン嬢に鍵を外側からかけ、その鍵を寝室に行く時に持って行くように指示していました。彼女は一言一句たがわず私の禁止事項を守りました。そして彼女の協力がなければ間違いなくあなたはその書類を上着のポケットに入れられなかったでしょう。彼女はそれから部屋を後にし、明かりは消えました。そして私は一人で石楠花の茂みの中にかがんでいました」