スリークォーターの失踪 4 | スリークォーターの失踪 5 | スリークォーターの失踪 6 |
ホテルからすぐ近くに電報局があった。我々はその前で立ち止まった。
「やってみる価値はあるな、ワトソン」ホームズが言った。「もちろん、令状があれば写しを見せろと要求できるが、まだその段階には到っていない。こんなに忙しい場所では顔を覚えていないだろうな。思い切ってやってみるか」
「ご迷惑をかけて申し訳ありませんが」彼は最も当たり障りのない態度で、格子の向こうの若い女性に言った。「僕が昨日送った電報にちょっと小さな間違いがありました。返事が来ていないんです。それで最後に自分の名前を書き漏らしたに違いないと非常に心配しています。そうなっているか分かりますか?」
若い女性は写しの束のページをめくった。
「何時です?」彼女が尋ねた。
「六時ちょっとすぎです」
「誰宛でしょうか?」
ホームズは唇に指を当てて私の方に目をやった。「最後の言葉は『お願いですから』です。彼は内緒話をする時のようにささやいた。「返事が来なくて、本当に心配なんです」
若い女性は電報用紙の一枚を束から外した。
「これですね。名前はありません」彼女はカウンターの上でしわを伸ばしながら言った。
「もちろんそれでは、返事が来ないのも当然だ」ホームズは言った。「やれやれなんて馬鹿なんだ、本当に!ありがとうお嬢さん。気持ちを安心させてくれて本当にありがとう」彼は私達がもう一度通りに出てきた時含み笑いをして手をこすり合わせた。
「どうだった?」私は尋ねた。
「進展があった、ワトソン、進展があったよ。僕はあの電報をちらっと見るために、七種類の計略を考えていた。しかし一番最初のやつで上手く行くとは、ほとんど期待していなかったな」
「で、何を入手できたんだ?」
「捜査の出発点だ」彼は辻馬車に声をかけた。「キングズ・クロス駅だ」彼は言った。
「それじゃ、出かけるのか?」
「そうだ、我々はケンブリッジまで一緒に行くべきだ。何もかもそっちを指しているような気がする」
「教えてくれ」私は馬車でグレイズ・イン・ロードを通っている時尋ねた。「この失踪の原因に、何か心当たりがあるのか?これほど動機のあいまいな事件は、我々が扱った全ての事件の中でも覚えがない。君はまさか、本気で裕福な叔父の情報を引き出すために彼が誘拐されたとは、思っていないんだろう?」
「実のところ、ワトソン、非常に可能性の高い解釈だとは思えんな。しかし僕は、あのとんでもなく不愉快な老人が一番興味を覚えそうな理屈として、あれを思いついたまでだ」
「確かにそうだったな。じゃ、他に考えがあるのか?」
「幾つかあるよ。この事件が重要な試合の前日に起き、このチームが勝利するためには、絶対に出場が欠かせないただ一人の人物が巻き込まれたということ、これが興味深く暗示的だということは、君も認めるだろう。もちろん単なる偶然かもしれないが興味深い。アマチュアスポーツでは賭けは主催されていないが、民間ではノミ行為が広く行われている。だから、競馬で悪党が競走馬を連れ去るように、手間をかけても選手を連れ去る価値があると思う人物がいるかもしれない。これが一つの説明だ。二つ目は非常に明らかなものだが、この青年は間違いなく巨額の資産の相続人だ。いくら彼の現在の資力がつつましいものであっても、彼を身代金目的で誘拐する計画が企てられる可能性がないわけではない」
「どちらの理論も、電報の説明がつかないな」
「まったくその通りだ、ワトソン。あの電報はただ一つの直接的な証拠で、これを説明しないで目をそらすことは許されない。今こうしてケンブリッジに向かっているのは、この電報の目的をはっきりさせるためだ。捜査の道筋は今はまだぼんやりしているが、もし夜までにそれをはっきりさせる事ができるか、非常な進捗がなければ、驚きだ」
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