「ホームズさん」彼女は言った。「この男は、夫と離婚するという条件で、私に結婚を申し込みました。彼は私に嘘をついていました。この悪党は、考えられるあらゆる方法で嘘をつきました。本当のことは一言も話しませんでした。でもなぜ、 ―― なぜなの?何もかも私のためだと思っていました。でも今、私は自分がただの便利な道具に過ぎないことが分かりました。なぜ、一つも誓いを守らない男のために、私が秘密を守る必要があるのでしょうか?なぜ、彼自身の邪悪な行いの結果から、彼を庇おうとしなければならないでしょうか?何でも尋ねてください。何も隠すつもりはありません。一つだけ誓って言っておきます。私があの手紙を書いた時、私を一番親切にしてくれたあの老紳士に危害が及ぶとは夢にも思いませんでした」
「私はあなたを全面的に信用します」シャーロックホームズは言った。「きっと、この出来事について自分から話すのは苦痛でしょうから、私があなたに起きたことを話せば、おそらくその方が楽でしょう。もし私が何か重大な間違いを話せば、そこを指摘してください。この手紙を出す事はステイプルトンに指示されたんですね?」
「彼が言ったとおりにタイプしました」
「おそらく、彼が言った面会の口実とは、あなたの離婚に関係する訴訟費用をサー・チャールズに援助してもらうということですね?」
「そのとおりです」
「あなたが手紙を出した後になって、彼はそこに行かないように説得したんですね?」
「他の男がこういう目的のお金を調達するのは、彼の面子を傷つけると言いました。そして彼は貧しい人間だけれども、私たちを引き離す障害物を取り除くために最後の一ペニーまで使うと」
「非常に一貫性のある人物を演じていますね。それからあなたは新聞の死亡記事を読むまで何も知らなかった」
「はい」
「そして彼はあなたにサー・チャールズとの面会について他言しないことを約束させた」
「そうです。彼はこの死が非常に謎めいたものだと言いました。そして、もしこの事実がおおやけになれば間違いなく私が疑われると言ったのです。彼は私を脅して何も言わないようさせました」
「そうでしょうね。しかし何も疑問を持たなかったのですか?」
彼女は躊躇して目を伏せた。
「彼の本性は分かっていました」彼女は言った。「しかし彼が誓いを守っていれば、私もずっと秘密を守ったでしょう」
「全体として考えれば、あなたが無事だったのは幸運でした」シャーロックホームズは言った。「あなたが彼の秘密を握り、そして彼も知られていると分かっていて、それでも無事でいられたとは。あなたはこの数ヶ月、まさしく絶壁の縁を歩いていたのです。それではこの辺で失礼します、ミセス・ライオンズ。また、近々もう一度お話することになるでしょう」