「しかしこの事件はどうなんです?」準男爵が訊いた。「もつれた糸から何か手がかりが見つかりましたか?ここに来てから、ワトソンと私が上手く行動したのかはよく分かりませんが」
「近いうちに、私は状況をもっと詳しく説明できるようになると考えています。この事件は、特に難しく非常に込み入った事件です。まだ明らかにしなければならない点が、いくつか残っています、 ―― しかし、それでも必ずはっきりさせます」
「ワトソンがきっと報告していると思いますが、私達は荒野で犬の鳴き声を聞きました。ですから、あの伝説がまったく根拠のない迷信ではない事は、誓って言えます。私はアメリカで犬と接したことがありますから、犬の声は聞き間違えません。もしあの犬に口輪をつけて繋ぎとめることができれば、私は喜んであなたが世界一の探偵だと認めます」
「あなたに協力していただければ、しっかりと犬に口輪と綱をつけられると思います」
「何でもおっしゃっていただければその通りにします」
「ありがとうございます。その上、何も理由を訊かずに、黙って言う通りにしていただくようにお願いしたいのですが」
「お望みどおりにします」
「もしそうしていただければ、この問題はすぐに解決できる公算が強いと考えています。間違いなく・・・・・・」
彼は突然に話を止め、私の頭上の空間をじっと睨みつけた。ランプの光が彼の顔を照らしていた。彼は非常に熱心で身じろぎ一つしなかったので、まるで、鋭敏さと希望を人の形で表現した鮮やかな古典的彫像のようだった。
「どうしたんです?」私達は二人とも叫んだ。
彼が目を下ろした時、私は彼が内面の感情を表に出さないようにしていることが分かった。表情は静かで落ち着いていたが、その目は歓喜に輝いていた。