「まだ靴を探しているんですか?」
「そうです。絶対に見つけます」
「しかし確か、新しい茶色の靴をなくしたとおっしゃっていましたね?」
「そうです。そして今度は古い黒い靴です」
「なんと!という事は、まさか・・・・・?」
「その通りです。私は靴は三足しか持っていないんです、 ―― 新しい茶色、古い黒、今履いているエナメルです。昨夜はホテルの奴が茶色の片方を持ち去り、今日は黒の片方をくすねた。さあ、見つかったのか?さっさと言え。突っ立ってじろじろ見てるんじゃねえ!」
おろおろした様子のドイツ人ウエイターが、やってきていた。
「いいえ。ホテルを全部調査しましたが、まだ見つかっていません」
「そうか。日暮れまでに靴が戻らんと、支配人にこのホテルをすぐに引き払うと言うからな」
「見つかると思います、 ―― お約束します。もう少し辛抱していただければ、見つかると思います」
「忘れるな。何があろうと、こんな泥棒の巣窟で物を盗られて、このままで済むと思うなよ。いや、いや、ホームズさん、あなたにお手間をとらせて申し訳ありません。こんなつまらない・・・・」
「これは手間をかけるに値する出来事だと思いますね」
「どうしたのですか。非常に深刻にとらえているようですが」
「何が起きたと思います?」
「皆目、見当もつきません。こんなに奇妙でおかしな事件が起きたのは生まれて初めてです」
「まあ、これ以上奇妙な事件はちょっとないでしょうね・・・」ホームズは感慨深げに言った。
「ホームズさんはどうお考えですか?」
「いえ、まだなんとも言えません。サー・ヘンリー、あなたの事件は非常に込み入っています。あなたの伯父上の死と合わせて考えた時、私が過去に手がけた最重要事件500全てを振り返っても、これほど奥が深い事件が一つでもあったか、確信は持てません。しかし色々な手がかりを握っていますので、その中から真相を解明できる見込みがあります。間違った手がかりを追って回り道をすることになっても、いつかはきっと正しい手がかりをつかんで見せます」