このとんでもない話を聞いた後、皆しばらく黙って座っていた。シャーロックホームズは兄の方を見た。
「何か手を打ったのか?」ホームズは尋ねた。
マイクロフトは、サイドテーブルに置いてあったデイリーニューズを取り上げた。
「下記の人物の消息に関して、情報を提供いただければ報奨金をお支払い致します。クラティデスという名前のギリシャ人男性。アテネより来訪。英会話能力なし。また、ソフィという名前のギリシャ人女性に関する情報を提供いただければ、同様の報奨金を支払います。X 2473.」
「全ての新聞に出した。反応はない」
「ギリシャ大使館は?」
「尋ねた。何も分からない」
「では、アテネ警察所長に電報は?」
「シャーロックはホームズ家のエネルギーを全部持って行ったな」マイクロフトは私の方を向きながら言った。「この事件は全てお前に任せた。何か進展があれば知らせてくれ」
「分かった」シャーロックホームズは椅子から立ち上がりながら答えた。「兄さんとメラスさんに連絡する。それまで、メラスさん、もし僕があなたなら身辺を警護します。この広告で、あなたの裏切りが彼らにも分かったはずです」
我々が一緒に家に向かって歩いている時、ホームズは電報局に立ち寄って何通か電報を打った。
「いや、ワトソン」ホームズは言った。「今夜行ったのはなかなか良かったよ。僕が扱った非常に面白い事件の何件かは、こんな風にマイクロフトに紹介してもらったものだ。今さっき聞いた事件は、一つの解釈しかあり得ないが、それでもちょっと他には無い特徴がある」
「解決できそうか?」
「まあ、ここまで分かっていて、残りが見通せないなんて馬鹿な話はない。さっき聞いた話から、君も自分なりの理論を組み立てたはずだ」
「ぼんやりとだが、まあ」
「では、君の考えは?」
「あのギリシャ女性は、ハロルド・ラティマーというイギリス青年に誘拐されて来たというのは間違いなさそうだ」
「どこから誘拐されたんだ?」
「多分、アテネだ」
シャーロックホームズは首を振った。「ハロルド・ラティマーはギリシャ語を一言も話せない。女性の方は英語をまあまあ話す。彼女はイギリスにしばらくいたが、彼はギリシャに行った事がないと推定できる」
「そうか、では、こう推定しよう。女性はかつてイギリスに来た事がある。そして、このハロルド・ラティマーという男が言いくるめて駆け落ちした」
「その方がずっとありえるな」
「そこに兄が、 ―― おそらく血縁関係があるはずだ ―― 、ギリシャから邪魔をしに来た。兄は軽率にも、ハロルド・ラティマーと年上の共犯者の手に落ちる。二人は、兄が管財人となっている女性の財産を自分たちに譲渡するという書類にサインをさせようと、兄を捕まえて暴力をふるう。兄はサインを拒む。二人は、交渉するために通訳者を連れ来る必要があった。以前は別の通訳者を使っていたが、その後メラス氏を選ぶ。女性は兄が来ていることを知らされていなかったが、ちょっとしたきっかけでそれを見つける」
「素晴らしい、ワトソン」ホームズは叫んだ。「君の見解は真実からそう遠くないと思うよ。いいか、カードはすべて我々の手にある。奴らがいきなり暴力的な行動に出るのだけが心配だ。時間さえあれば、必ず奴らを捕まえてみせる」
「しかしどうやって家の場所を見つけるんだ?」
「もし我々の推理が正しく、女性の名前がソフィー・クラティデスか、あるいは以前そうだったなら、突き止めるのは簡単だ。言うまでもなく、兄は完全に余所者だから、これが一番見込みがある。ハロルド・ラティマーがこの女性と深い関係になってからある程度の期間が経っているのは確かだ、 ―― どう見積もっても数週間は経っている。ギリシャにいる兄が、その関係を耳にしてやって来る時間があったはずだ。ハロルド・ラティマーとソフィーがこの間同じ場所に住んでいれば、マイクロフトの広告に何らかの反応が期待できる」