グロリア・スコット号事件 2 | グロリア・スコット号事件 3 | グロリア・スコット号事件 4 |
「『では、いいかな、ホームズ君』トレバーの父親は大らかに笑いながら言った。『何か推理するなら、私はまさに適役だよ』」
「『残念ながらそれほど多くはありませんが』僕は答えた。『この十二ヶ月、あなたは誰かに攻撃される事を恐れてきたように思えます』」
「トレバーの父の唇から笑いが消え、真剣に驚いた様子で僕をじっと見つめた」
「『まあ、見事に的中だ』彼は言った。『ビクター、お前も知ってのとおり』彼は息子の方を向いた。『密猟団を壊滅させた時、あいつらは絶対に報復すると誓っていた。そして、実際にエドワード卿が襲われた。それ以来いつも警戒を怠らないのだが、どうして君がその事を知ったのかは分からん』」
「『非常に上等なステッキをお持ちですが』僕は答えた。『銘を拝見したところ、使い出してから一年も経っていません。しかし、わざわざ握りの部分をくり抜いて穴から溶かした鉛を流し込み、強力な武器に仕立て上げています。何か身の危険を感じていなければ、そんな用心をするはずがありません』」
「『他には?』トレバーの父は微笑みながら尋ねた」
「『若い時にボクシングをずいぶんなさっています』」
「『これも正解だ。どうして分かった?私の鼻は打たれてちょっと曲がっているかな?』」
「『いいえ』僕は言った。『耳です。妙に平べったく分厚くなっています。それはボクシングをやった人間の特徴です』」
「『他には?』」
「『手のタコから見ると、かなりの採掘を経験しています』」
「『金鉱で全財産を築いた』」
「『ニュージーランドに行ったことがあります』」
「『それも正しい』」
「『日本にも行っています』」
「『その通り』」
「『イニシャル J. A. という人物と非常に親しくしていました。その後、なんとかしてその人物を完全に記憶から消したいと思うようになりました』」
「トレバーの父はゆっくりと立ち上がって、大きな青い瞳で僕をじっと見た。不思議な激しい眼差しだった。それから、前のめりに倒れると、テーブルクロスに散らかったナッツの殻の中に顔をつっぷして、完全に気を失った」
「ワトソン、彼の息子と僕がどれくらい驚いたか想像できるだろう。しかし、発作はそれほど続かなかった。僕たちが襟元を緩め、手洗いの容器から水を顔に掛けると、彼は一、二度あえいで椅子に起き上がった」
「『ああ、お前たち』トレバーの父は無理に笑顔を作って言った。『驚かせてしまったかな。元気そうに見えても心臓に問題があって、ちょっとした事で簡単に倒れてしまう。ホームズ君、どうやって見破ったかは知らんが、フィクションの世界を含めた全探偵が束になっても、君にかかれば赤子同然だと思う。探偵は君の天職だ。世の中をいくらか見知った男の言葉として、よければ参考にしてくれ』」
「ワトソン、もし僕の言葉を信用してもらえれば、その時点までは単なる趣味だったものから、専門的な職業の可能性を感じたのは、僕の能力を過大評価したこの推薦がきっかけだ。しかしこの時は、トレバーの父の突然の発作が非常に気がかりだったので、それ以外の事には気が回らなかった」
「『気に障る事を申し上げていなければ良いのですが?』僕は言った」
「まあ、確かにちょっと痛い所を突かれた。どうやって分かったのか、どこまで分かったのか、訊いても構わんかね?』彼はこの時ちょっと冗談めかした話しぶりだったが、瞳の奥にはまだ恐怖の色が潜んでいた」
「『単純この上ない事です』僕は言った。『あなたが魚をボートに引き揚げようと腕まくりをした時、肘の関節部分に J. A. という刺青があるのが見えました。その文字は十分に判読可能でしたが、滲んでいて、周りの皮膚がアザになっていることから、それを消そうと努力したことは明らかでした。ですので、あなたはそのイニシャルの人物とかつて非常に親しかったが、その後その人を忘れたくなったというのは明白です』」
「『なんという鋭い観察眼だ!』トレバーの父は安堵の溜息をついて叫んだ。『君の言うとおりだ。しかしこの話はしないでおこう。あらゆる幽霊の中で、昔愛した人のものが一番恐ろしい。玉突き部屋に行って静かに煙草をふかそう』」
「その日以来、トレバーの父は、僕に対して好意的な態度ではあったが、常に疑念の影があった。息子でさえそれを指摘したものだ。『親父は君にえらい衝撃を受けたようだな』トレバーは言った。『君が何をどこまで知っているか、もうあまり自信がないようだ』もちろん、トレバーの父はその疑念を隠そうとつとめていたが、あまりにも気がかりなために、何をしても表に出てしまうようだった。最終的に僕は、自分がいるとトレバーの父が不安がるので、訪問を切り上げるべきだと決意した。しかし、僕が帰るまさにその日、後日重要と判明した事件が起きたのだ」
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