コンプリート・シャーロック・ホームズ
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しかしホームズの予想は間違っていた。通路をやってくる足音が聞こえ、ドアがノックされた。ホームズは長い手を伸ばして、ランプの向きを自分の方から依頼人が座る空いた椅子に向けて変えた。「どうぞ!」彼は言った。

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入ってきたのは、せいぜい22歳位の若い男だった。身だしなみは丁寧で、きちんとした服装をしていた。持ち物には幾分の洗練と優美さがあった。雨が滴り落ちる傘を手にして、濡れて光る長いレインコートを着ている姿は、依頼人がひどい悪天候の中を通ってきたことを物語っていた。彼はランプの光の中で不安そうにあたりを見回した、そしてその顔は青白く、目は重そうで、大きな不安に押しつぶされそうな人間のように精気がなかった。

「申し訳ありません」依頼人は金の鼻眼鏡を上げながら言った。「ご迷惑ではないとありがたいのですが。この居心地よい部屋に、嵐と雨の雫を持ち込んだのではないかと心配です」

「コートと傘をこちらへ」ホームズは言った。「ここの鉤にかけておくとすぐに乾くでしょう。南西から来たようですね、見たところ」

「はい、ホーシャム*からです」

「あなたの爪先の革についている粘土と石灰の混合物は、極めて特徴的なものです」

「ご相談があって来ました」

「それはお安い御用です」

「できれば手助けもお願いしたいのです」

「それは必ずしも簡単とは限りませんな」

「あなたの評判は伺っています、ホームズさん。メイジャー・プランダガストから、タンカビル・クラブのスキャンダルの際、どのようにあなたが助けてくれたかを聞きました」

「ああ、当然のことをしたまでです。間違ってトランプのいかさまをしたと起訴されたのですからね」

「彼は、あなたなら何でも解決できると言いました」

「それは誉めすぎですな」

「決して負かされないと」

「私は四回してやられています。3回は男性に、たった一度だけ女性に」

「しかしあなたの成功の数に比べるとたいしたことはないでしょう?」

「たいていの場合成功を収めるというのは事実です」

「でしたら私の場合も成功するかもしれませんね」

「椅子を暖炉の側に持ってきて、あなたの事件の詳細を説明していただけますか」

「まったく普通のものではありません」

「そうでない人はここには来ません。私はいわば、事件の最高裁判所の立場です」

「それでも、あなたが手がけた全ての事件の中で、私の家族に起きた事件以上に、謎めいて不可解な出来事が続く事件があったのか、疑問に思っています」

「あなたのお話は面白そうですね」ホームズは言った。「主要な事実を始めからお話いただけますか。その後で、私から重要だと思う細かい点について質問します」

青年は椅子を寄せて、濡れた足を火に向けて差し出した。