コンプリート・シャーロック・ホームズ
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我々がネイサン・ガリデブの奇妙な家に着いた時、ちょうど四時になっていた。管理人のサンダース夫人は、帰ろうとしていたが彼女はためらうことなく我々を中に入れた。扉の鍵は自動だったし、ホームズが帰る前に全てが問題ないかを確認すると約束したからだ。しばらくして玄関の扉が閉まり、彼女の帽子が張り出し窓を横切って行った。そしてこの家の一階にいるのは我々だけだと分かった。ホームズは部屋の中を手早く調べた。暗い影になったところに壁からすこし離れて立っている一つの戸棚があった。我々が最終的にしゃがみこんだのは、その戸棚の後ろだった。ホームズが彼の計画の概要を話し始めた。

「彼は、あの人のいい我らの友人にこの部屋から出て行って欲しかった ―― これは非常に明白だ。そして、あの収集家が全然外出しないので、そうさせるためには計略が必要だった。このガリデブのでっち上げ話全体にどうやら他の目的はなさそうだ。ワトソン、こいつは明らかに悪魔の狡猾さだ。ここの住民が奇妙な名前だったために、彼が思いがけない突破口を手にする事ができたとしてもな。奴が練り上げた計画は驚くべき巧妙さだ」

「しかし彼は何が目的なんだ?」

「それは僕達がここにで見つけようとしているものだ。僕がこの状況から読み取れる限りでは、それが何であろうとも、あの依頼人とはまったく関係がない。それは何か彼が殺した人間に関係あるものだ ―― この男は犯罪の共犯者だったのかもしれない。この部屋にはなにか犯罪にまつわる秘密がある。それが僕の推理だ。最初に僕は依頼人が彼の収集物の中に思っている以上に価値のあるものを持っているのかもしれないと考えた。それは、重大な犯罪を企てる価値がある何かだ。しかし悪名高いロジャー・スコットがこの部屋に住んでいたという事実は、それ以上の何かもっと深い理由を疑わせる。さあ、ワトソン、じっとしている以外にできる事はないのだ。何が起きるか待つことにしよう」

もうすぐ五時の鐘が鳴る時刻だった。玄関の扉が開いて閉じる音が聞こえて、私達は影の中でさらにしゃがみこんだ。そのあと鍵で開ける鋭いはじける金属音がして、あのアメリカ人が部屋に入ってきた。彼はそっと扉を閉め、全て問題ないかを確認するためにあたりを鋭く見回し、コートを脱ぎ捨て、何をしなければならないか、どうすればよいか、全て知りつくした人間の勢い込んだ態度で、中央のテーブルに歩み寄った。彼はテーブルを片隅に押し寄せ、その下にあった四角い絨毯を持ち上げ、それを完全に丸めて後ろにやり、それから、内ポケットから金てこを取り出し、ひざまずいて精力的に床で何かをしだした。まもなく板がすべる音がして、次の瞬間板材の中に四角い穴が開いた。殺し屋エバンズはマッチを擦り、ろうそくの燃えさしに火をつけ、我々の視界から消えた。

明らかに我々の出番が到来した。ホームズは合図として私の手首に触れ、私たちは一緒にそっと開け放たれた跳ね上げ戸に忍び寄った。我々はそっと歩いたが、古い床が踏んだときに音を立てたに違いなかった。アメリカ人の頭が、不安そうにあたりを見回しながら、突然開口部から出てきたからだ。彼が我々を見た時、顔にさっと驚いた怒りの表情が浮かんだが、彼の頭に二丁の拳銃が突きつけられている事に気づくと、徐々に恥ずかしそうな笑顔へと表情を和らげた。

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「やれ、やれ!」彼は慌てて上がって来て言った。「あんたはちょっと邪魔者だったようだな、ホームズ。俺のことはお見通しだったのか。そして最初から俺を青二才扱いしていたんだな。そうだな、ほめてやるよ、あんたは俺を打ちまかし・・・」

一瞬だった。彼はさっと胸元から拳銃を取り出すと、二発撃った。私はあたかも赤熱した鉄を腿に押し付けられたような焼け付く痛みを感じた、。ホームズの拳銃が男の頭を激しく打ちつけた。私は彼が顔から血を流し、手足を広げて床に横たわっているのをぼんやりと見ていた。その間ホームズは彼の武器をくまなく確かめた。それから、ホームズの筋張った手が私を抱え、椅子まで連れて行った。

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「怪我はないな、ワトソン?お願いだから、怪我はないと言ってくれ!」

一つの怪我の価値があった、・・・・もっと沢山の怪我の価値があった・・・・冷たい仮面の下に潜んでいる誠実さと愛情の深さを知るためなら。明晰で厳しい目が一瞬霞み、引き締められた唇は震えていた。たった一度だけ、私は偉大な頭脳だけではなく、偉大な思いやりを垣間見た。私のささやかだがひたむきな長年の貢献によって、遂にこの発露の瞬間がもたらされたのだ。