警部とトレベリアン博士は約束の時刻に到着したが、ホームズが帰って来たのは四時十五分前だった。しかし、入って来たホームズの表情から、全てが上手くいったことが分かった。
「何か進展がありましたか、警部?」
「ボーイを捕まえました」
「すばらしい。僕は犯人を捕まえた」
「捕まえた!」我々三人は一斉に叫んだ。
「少なくとも、犯人の正体は突き止めた。僕の予想では、このブレッシントンという人物、そして彼の襲撃者も、警視庁ではよく知られているはずだ。名前は、ブリドル、ヘイワード、モファットだ」
「ウォーシンドン銀行強盗か」警部は叫んだ。
「そのとおり」ホームズは言った。
「では、ブレッシントンとはサットンに違いない」
「まさにそのとおり」ホームズは言った。
「これで何もかもはっきりしました」警部は言った。
しかしトレベリアン博士と私は当惑してお互いを見た。
「ウォーシンドン銀行の大事件はきっと覚えているはずだ」ホームズは言った。関わったのは五人の男だ、 ―― この四人に加えて、五人目はカートライトという名の男だ。管理人のトビンが殺された。そして強盗団は七千ポンド盗んだ。この事件は1875年だ。五人は全員逮捕された。しかし彼らを有罪にするには証拠が不十分だった。このブレッシントンは、 ―― サットンのことだが ―― 、この一味で一番の悪党だったが、情報提供者として寝返った。彼の証言で、カートライトは絞首刑になり、残りの三人はそれぞれ十五年の刑を受けた。彼らは刑期を三年残していたが、つい先日出所した。想像がつくだろうが、それから彼らは裏切り者サットンの跡を追い、仲間の死の復讐を遂げようとした。彼らは二度襲撃しようとしたが失敗し、三回目に、この通り成功した。他にお聞きになりたいことがありますか?トレベリアン先生」
「何もかも驚くほど明確な説明だと思います」トレベリアン博士は言った。「ブレッシントンさんがあれほど動揺した日は、きっと新聞で仲間の出所を知った日でしょう」
「まさしくそのとおり。泥棒に関する話はただの口実です」
「しかし彼はなぜこの事をあなたに話せなかったのでしょう?」
「そうですね。昔の仲間の復讐心溢れる性格を知っていて、できるかぎり正体を隠そうとしていたのでしょう。ブレッシントンの秘密は恥ずべきものでした。だから彼はそれを明かすことができなかったのでしょう。しかし、ブレッシントンが下劣な人間とはいえ、それでも英国法の庇護の下に生きていました。法律は彼を守る事ができませんでしたが、まだ犯人に罪の報いを受けさせることはできるということは、警部、もちろんお分かりでしょう」
これがブルック街の医者と入院患者にまつわる奇妙な事件の顛末である。その夜以降、警察の捜査でも、この三人の殺人犯に関する消息はない。だがロンドン警視庁は、彼らが数年前ポルトガル沖、オポルトの数リーグ北の海上で、搭乗者ごと消息を絶つという不幸な運命をたどったノラ・クレナ号という蒸気船に乗っていたと推測している。ボーイに関する裁判は証拠不十分で無罪となった。そしてこのブルック街事件と呼ばれるものは、現在までどの新聞でも詳しく取り上げられてはいない。