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公爵は弾けるように立ち上がると、深淵に沈み込んでいく人間のように両手で空を掻いた。その有様は決して脳裏から離れないだろう。その後、並外れた貴族としての自制心で、彼は椅子に座り両手に顔をうずめた。彼が話すまでに何分かが流れた。
「どこまで知っている?」遂に彼は頭を起こすことなく尋ねた。
「あなたとご子息が一緒にいるのを昨夜見ました」
「そこの友人以外に知っている人間はいるのか?」
「誰にも話しておりません」
公爵は震える手でペンをとり小切手帳を開いた。
「私は言った事は守る、ホームズ君。私は君の小切手をこれから書くところだ。君が知った情報が私にとっていかに迷惑なものであろうともだ。最初にこの報奨金の提案をした時、私は事件がどのように展開するかほとんど分かっていなかった。しかし君と君の友人は口の堅い人間だな、ホームズ君?」
「閣下のおっしゃられる事が良く分かりませんが」
「みなまで言わさんでくれ、ホームズ君。このことを知っているのが君達二人だけなら、それがさらに広がる理由は全くない。君に借りがある額面は12000ポンドだったな?」
ホームズは微笑んで首を振った。
「残念ですが、閣下、事はそう簡単にはまいりますまい。教師が死亡した事の責任はとらねばなりません」
「しかし、ジェームズはそれについて何も知らなかったのだ。その責任で逮捕することはできん。あれはあいつが不幸にも雇ってしまった残忍な無法者がしでかしたことだ」
「私はこういう立場をとらねばなりません、閣下。一人の男が犯罪に手を染めた時、そこから派生する別のあらゆる犯罪に関して道義的責任を負うべきです」
「道義的には、ホームズ君。間違いなく君の言うとおりだ。しかし法的な視点では絶対に違う。現場にいなかった男を殺人罪で有罪にはできん。それに彼は殺人を君達と同じように忌み嫌っているのだ。彼がその殺人を聞いた瞬間、彼は私に全てを打ち明けた。彼は恐怖と自責の念でいっぱいになったのだ。あの殺人者と完全に手を切るまでに一時間も無駄にはしなかった。ああ、ホームズ君、君は彼を救わねばならん、 ―― 君は彼を救わねばならん!絶対に君は彼を救わねばならん!」公爵は何とか自制しようという最後の努力をかなぐり捨て、顔を引きつらせ、握り締めた拳を狂ったように振り回して部屋を歩き回っていた。遂に彼は自分を取り戻し、もう一度机の前に座った。「他の人間に話す前にここに来た君の行動には感謝する」彼は言った。「少なくとも、ここで恐ろしいスキャンダルをどこまで穏便に済ませるか、話し合うことができる」
「その通りです」ホームズは言った。「ただ閣下、それは閣下と私たちの間に一切隠し事が無い場合にのみ可能ではないでしょうか。私は出来る限り閣下のお役に立ちたいという気はあります。しかしそのためには、事件の状況がどのようなものか隅から隅まで知っておく必要があります。あなたの話がジェームズ・ワイルダー氏の事を指していて、彼が殺人犯でないということは了解しています」
「そうだ、殺人犯は逃げた」
シャーロックホームズは静かに微笑んだ。
「閣下はどんな小さな私の評判もほとんど耳にされていないようですね。そうでなければ、そう簡単に私の手を逃れられるなどという想像はしなかったはずです。私の通報で昨夜11時、ルーベン・ヘイズはチェスターフィールドで逮捕されました。今朝学校を出る前に地元警察署長から電報を受け取りました」
公爵は椅子にもたれかかってホームズを驚きの目で見つめた。
「君はとても人間とは思えない能力をもっているようだ」彼は言った。「ではルーベン・ヘイズは捕まったのか?それを聞いて本当にありがたい。もしそれがジェームズの運命に影響を与えなければだが」
「あなたの秘書の?」
「いや私の息子だ」
驚愕の表情を見せるのはホームズの番だった。
「それは全く知りませんでした、閣下。もっと詳しくお話をお伺いしたいのですが」
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