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その声が消えるや否や、驚くべきことが起きた。廊下の端の堅い壁だと見えたところに、突然扉がぱっと開いた。そこから、背の低いしなびた男が、脱兎のごとく飛び出してきた。
「上出来だな!」ホームズが静かに言った。「ワトソン、バケツの水を麦わらにかけてくれ。それでよし、レストレード、見逃された重要証人を紹介させていただきたい。ジョナス・オルデイカー氏です」
警部は真っ白になるほどの驚きで新参者をまじまじと見つめた。相手は廊下の明るい光で、目をぱちぱちさせていた。そして我々とくすぶっている火を覗き込んだ。ずる賢そうな、意地の悪そうな、悪意に満ちた、ずるそうな灰色の目、白髪交じりのまつ毛、・・・・醜悪な顔だった。
「これはどうしたことだ、いったい?」遂にレストレードが言った。「この間ずっと何をしていたんだ、ええ?」
オルデイカーは、警部が怒りに逆上して真っ赤な顔になったのに怯え、わざとらしく笑った。
「実害は何もないですよね」
「実害がない?無実の男を絞首刑に送るために悪知恵の限りを尽くしただろうが。もしこの紳士がいなかったら、お前の思い通りになったかもしれないぞ」
卑劣な男は泣き言を言い始めた。
「ちょっとしたジョークなんで。本当です」
「ほお!ジョーク、そうか?言っておくが、お前の方が笑えることは絶対ないぞ。下に連れて行け。私が行くまで居間に止めておけ。ホームズさん」警官が出て行った後、彼は続けた。「巡査の前ではお話できませんでしたが、ワトソン博士の前なら言っても構いません。これは今までで一番お見事でした。どうやってこれが出来たか、私には謎ですが。あなたは無実の男の命を救いました。そして私の警察での評判を破滅させかねなかった深刻な不祥事を未然に防ぎました」
ホームズは微笑んで、レストレードの肩をポンと叩いた。
「破滅する代わりに、レストレード警部、君の評判は大いに上がることになるだろう。ただ君が書いていた報告書を、ちょっと修正すればいい。そうすれば、レストレード警部の目をくらますのはいかに難しいか、評判になるぞ」
「あなたは自分の名前が出なくてもいいんですか?」
「全然かまわんよ。仕事はそれ自体が報酬なのだ。多分かなり先になって僕も名声を得るだろうね。僕が熱心な専属歴史家に対して、もう一度原稿用紙を広げてもいいと許可すれば、 ―― そうだね、ワトソン?さあ、ドブネズミが隠れていたところを見に行こう」
裏が木摺下地で表が漆喰の仕切り壁が、廊下の端から1.8メートルの場所に廊下と直角に作られ、その壁に扉が巧妙に隠されていた。ひさしの下の細い隙間から光が入ってきていた。家具が数点あり、中にはたくさんの書籍・書類と一緒に食料と水の備蓄があった。
「建築業を営んでいるものの強みだね」ホームズは我々が出てきた時言った。「彼は一人の共謀者もなく自分用に小さな隠れ家を作りつけることが出来た、 ―― もちろんあのふざけた家政婦は別だ、さっさと彼女を拘束することだな、レストレード」
「ご忠告のとおりにしましょう。しかしこの場所をどうやって知ったのですか?ホームズさん」
「僕はあいつがこの家の中に隠れていると確信をもった。僕はある廊下を歩測し、それが下の廊下より1.8メートル短いことを発見した。どこに彼がいるかは極めて明快だった。僕はあいつが火事だという叫び声を聞いても静かに寝転んでいるほど大胆な奴じゃないと思った。もちろん踏み込んで連れ出すこともできた。しかし僕には、あいつに自分で居場所を明かしてもらうのも一興だった。それに僕は君にちょっともったいをつけられた借りがある、レストレード、今朝君にからかわれた分だ」
「確かにそれでおあいこですね。しかしいったいどうやって彼が家の中にいると分かったのですか?」
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