コンプリート・シャーロック・ホームズ
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訪問者の顔は告発人の言葉に耳を傾けている時灰のように白くなっていた。ここで彼は手に顔をうずめて座って考え込んでいた。その後突然、衝動的な身振りで、彼は胸ポケットから一枚の写真を取り出し、我々の前にあった荒削りのテーブルの上に投げた。

「私がやった理由はこれだ」

それは非常に美しい女性の上半身の写真だった。ホームズは上体を傾けてそれを覗き込んだ。

「ブレンダ・トレゲニス」彼は言った。

「そうだ、ブレンダ・トレゲニス」訪問者は繰り返した。「長い間私は彼女を愛していた。長い間彼女も私を愛していた。誰もが驚きを隠さなかった私のコーンウォール隠遁の秘密はこれだったのだ。ここでは、私がこの世で愛しいと思うただ一つの存在のそばににいられた。私には妻がおり、彼女と結婚することはできなかった。妻は何年も前に私の元を去っているがそれでもひどい英国法によって、私は離婚することができなかった。ブレンダは何年も待った。私は何年も待った。なのに、私たちが待っていたものはこれだったのか!」激しいすすり泣きが彼の巨体を揺らした。そして彼はごわごわした顎ひげの下で喉を押さえた。それから、彼は必死で自制心を取り戻し、続きを話した。

「司祭は知っていた。彼には秘密を打ち明けていたのだ。司祭は彼女が地上の天使だったと言うだろう。彼が私に電報を打って戻ってきたのはそのためだ。私の愛する人にこんな運命が降りかかったと知れば、荷物やアフリカが私にとって何なんだ?これで私の行動の隠された動機が分かっただろう、ホームズ君」

「お続けください」ホームズは言った。

スタンダール博士はポケットから紙包みを取り出してテーブルに置いた。表には「悪魔の足の根」と書かれ、その下に赤い毒物ラベルが貼ってあった。彼はそれを私の方に押し出した。「あなたは医者だという話だが、この薬品を耳にしたことがあるかね?」

「悪魔の足の根!いや、聞いたことがない」

「医者が知らなくても、恥ずかしい事ではない」彼は言った。「ブダの研究所にある一つのサンプルを除き、ヨーロッパに他の標本はないと思う。これはまだ薬局方にも毒物学の文献にも出ていない。この根は半分人間で、半分ヤギのような、足の形をしている。このために、植物学に詳しい宣教師によってこの名前がつけらたのだ。これは西アフリカのある地方のまじない師によって贖罪の毒薬として利用されている。そして彼らの間で秘密にされている。この標本は、私がウバンギのある地方で、途方もない状況下で入手したものだ」話しながら彼は紙包みを開き、赤黒いかぎ煙草のような粉の山を見せた。

「それで?」ホームズは厳格に言った。

「これから話すことは、ホームズ君、すべて本当に起きたことだ。君がすでにそこまで知っているのなら、もう何もかも知ってもらうのが私の利益となるのは明らかだ。すでにトレゲニス家との関係については、説明した。妹のために、私は兄たちとも仲良くしていた。金銭問題で兄弟間のもめ事があり、このモーティマーという男は疎遠になっていた。しかし表面上、関係は修復されたように見えていた。だから私はしばらくして、他の兄と同じように彼ともつきあうようになった。彼はずるい、油断ならない、策略家だった。そしてどうも、胡散臭いと思うような時が何度かあった。しかしはっきり敵対する理由はなかった」

「ほんの二週間前のある日、彼は私の家に来て、私はアフリカの珍しい品物を何点か見せていた。他の物と一緒に私はこの粉を見せ、その奇妙な特性を説明した。いかにこれが恐怖の感情を制御する頭脳中枢を刺激するか、そして部族の聖職者によって神判にかけられた不幸な現地人の運命は、狂気か死しかないという話をしたのだ。私はヨーロッパの科学では到底それを検出できないという事も話した。私はまったく部屋を離れなかったので、彼がどのようにそれを盗んだかは分らない。しかし私が棚を開けて箱をとろうと、うずくまっている間だったことは間違いない。彼は巧妙に悪魔の足の根の一部を持ち去ったのだ。私は、彼が毒が効力を発揮するのに必要な時間と量について質問攻めにした事をよく覚えている。しかし彼が個人的な理由でそれを訪ねていたとは夢にも思わなかった」

「司祭の電報がプリマスにいた私に届くまで、この件について何も思い出さなかった。この悪党は、知らせが届く頃、私は海の上にいて、アフリカに行けばしばらく連絡がつかなくなるに違いないと考えたのだ。しかし私はすぐに戻ってきた。もちろん、詳細を聞けば、自分の毒が使われたと確信を持たざるをえなかった。私は君が何か別の解釈を考えているかもしれないと、それを期待して会いに行った。しかしそんなことはありえなかった。私はモーティマー・トレゲニスが殺人犯だと確信した。動機は金だ。おそらく他の家族が全員判断力を失えば、自分が共有財産の後見人になるだろうと考えて、彼は悪魔の足の粉末を使って、二人の兄の正気を奪い、私が愛し愛されたただ一人の女性、妹のブレンダを殺した。これが彼のやった犯罪行為だ。彼にどんな罰を与えるべきだったというのか?」

「私は警察に訴えるべきだったのか?どこに証拠がある?私はこれが真実だと知っていた。しかしこんな雲をつかむような話をこの国の陪審員に信じさせることができたのか?それは裁判をやってみるまで分からなかっただろう。しかし私は失敗を受け入れる心の余裕などなかった。私の心は復讐を叫んでいた。ホームズ君、私はさっき君に人生のほとんどを法の及ばないところで過ごし、最終的には自分が法になってきたと言った。だからその時も同じだった。私は、彼が他人に与えた運命を彼自身が受けるべきだと判決を下した。もしそれが出来なければ、私がこの手で彼に当然の罰を与えただろう。イギリス中で、今の私ほど命知らずの人間はおらんのだ」

「これで君に全てを話した。これ以外は君自身がもう知っている事だ。私の行動は君が言ったとおりだ。私はまんじりとも出来ない夜を過ごした後、朝早く家を出た。彼を起こすのが難しいと予想していたから、君の言った小山から少し小石を持っていき、それを窓に投げた。彼は降りてきて、居間の窓から私を中に入れた。私は彼の前に罪状を突きつけ、自分が裁判官で死刑執行人になると言った。あの卑劣漢は私の拳銃を見て、腰が抜けて椅子にへたり込んだ。私はランプに火をともしてその上に粉を置き、万一彼が部屋を出ようとすればいつでも撃つと脅して、窓の外側に立っていた。五分で彼は死んだ。物凄い死に様だった!しかし私の心は氷のように冷たかった。彼が受けたのは、罪もない私の恋人が彼の前に味わった苦痛以上ではなかったからだ。私の話はこれで終わりだ、ホームズ君。多分、君が女性を愛すれば、同じようにするだろう。いずれにせよ、私は君の手の中だ。好きなようにしてくれ。すでに言ったように、私より死を恐れない男はこの世にいないのだ」

ホームズはしばらくの間黙って座っていた。

「あなたの今後の計画は?」彼は遂に尋ねた。

「私は中央アフリカで一心に働くつもりだった。そこでの研究がまだ半分しか終わっていない」

「行って残りの半分をやることですね」ホームズは言った。「少なくとも私は、その邪魔はしません」

スタンダール博士は大きな体を起こし、いかめしく頭を下げ、東屋から歩いて去って行った。ホームズはパイプに火をつけ、私にタバコの袋を渡した。

「毒性のない煙を吸うのは、いい気分転換になるな」彼は言った。「ワトソン、君もこの事件は我々がいらざる関与をする事件じゃないと認めるしかないだろう。我々は独立して捜査してきたわけだから、今後の行動もそうであるべきじゃないか。君はあの男を告発するつもりはないだろう?」

「もちろんない」私は答えた。

「ワトソン、僕は人を愛したことがない。しかしもし僕が人を愛し、愛する女性があのような最期を遂げれば、あの無法者のライオンハンターがやったのと同じようにするかもしれない。まあ、わからんがね。ところでワトソン、最後に分かりきったことを説明するが、君の知性を侮辱するつもりはないよ。窓枠に乗っていた小石は、もちろん僕の捜査の出発点だった。司祭の家の庭にはあれに似た石はどこにもなかった。僕はスタンダール博士と彼の家に注目するまで、あれに似た石を見つけられなかった。日が高くなって輝いていたランプと、ランプカバーについていた粉末は、推理の鎖にぴったり合う環だった。さてそろそろ、ワトソン、この事件の事は忘れて、晴れ晴れした気分でカルデア語の起源に戻ろう。これは間違いなく大きなケルト語のコーンウォール語派につながりがあるはずだ」