コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「ヒルトン・キュービット夫人は重傷を負って、死の縁にいる」

この男は家中にとどろき渡るしわがれた悲嘆の叫びをあげた。

「気でも違ったか!」彼は恐ろしい声で叫んだ。「俺が撃ったのは奴だ、彼女じゃない。誰が可愛いエルシーを傷つけるんだ?俺は彼女を脅したかもしれない、・・・神よ許したまえ!しかし俺は彼女の美しい髪一本にも触れようとはしなかった。取り消せ、・・・・こいつ!彼女は怪我をしていないと言え!」

「彼女は亡くなった夫の側でひどい怪我をして発見された」

彼は深くうめいて長椅子に沈み込んだ。そして手錠を掛けられた手に顔をうずめた。彼は五分間黙っていた。それからもう一度顔を上ると、絶望に凍りついたような落ち着きで話し始めた。

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「何も隠し立てする事はない」彼は言った。「俺があの男を撃ったのは、相手が撃って来たからだ。だから、これは殺人なんかじゃない。しかしもし、俺があの女を傷つけたかもしれないと思うなら、あんたらは俺も彼女も分かっていない。いいか、俺ほど彼女を愛していた男は世界中に一人もいない。俺は彼女に対して権利があった。ずっと前に彼女は俺に誓いを立てた。俺達の間に割り込んできたこのイギリス男は誰なんだ?俺は彼女に優先権があったと言っておく。そして俺は自分のものを要求しただけなのだ」

「彼女はお前がどんな男か分かった時、お前を捨てた」ホームズは厳しく言った。「彼女はお前から逃れるためにアメリカから逃げた。そして名誉ある紳士とイギリスで結婚した。お前はしつこく付きまとい、後を追い、彼女が愛し信頼する夫を捨て、恐れ憎んでいるお前と一緒に逃げるように強要し、彼女に悲惨な思いをさせた。お前がやった事は、気高い男を死に至らしめ、その妻を自殺に追いやるという結末を迎えた。お前がこの事件で起こしたのはこういう事だ、エイブ・スレイニー君。君は法的な責任をとることになるだろう」

「もし、エルシーが死ぬなら、俺はどうなっても構いはしない」このアメリカ人は言った。彼は片手を開き、手の平の中でしわくちゃになった手紙を見た。「これを見ろ」彼は疑わしそうに目を光らせて叫んだ。「お前達は俺を脅そうとしているな?もしお前達の言うようにあの女性が傷ついているならこの手紙を書いたのは誰だ?」彼は前にあったテーブルの上に手紙を放り出した。

「お前をおびき寄せるために僕が書いたのだ」

「お前が書いた?この世で踊る人形の秘密を知る者はジョイントの他には誰もいなかった。どうやってお前に書けるんだ?」

「人が考えうる事は、人が暴くこともできる」ホームズは言った。「お前をノーウィッチに護送する馬車が来る事になっている、スレイニー君。しかしそれまでの間、お前が働いた危害に対していくらかでも償いをする時間がある。お前は、ヒルトン・キュービット夫人が自分の夫を殺害したという大変な嫌疑をかけられているのを知っているのか?僕がここにいて、たまたま事実を知っているからよかったものの、そうでなければ告訴されるところだ。夫人はまったく、 ―― 直接的にも間接的にも ―― 、夫の悲劇的な最期に責任がない事をはっきりさせるのは、お前にとって最低限の責務だ」

「もう俺はどうしようもない」アメリカ人が言った。「多分、今の俺にとって一番いいのは、ありのままの真実を話すことだろうな」

「職務としてお前に警告する。お前が話すことはお前にとって不利な証拠として採用されうる」警部がイギリス警察の素晴らしく公正な態度で叫んだ。

スレイニーは肩をすぼめた。