コンプリート・シャーロック・ホームズ
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「もし小さな相棒と俺が経験した出来事を何から何まで話そうとしたら、いい迷惑だろう。あんた方は、日が昇るまでここから出られないからな。俺たちは世界をあちこち放浪した。いつもどういうわけか、ロンドンの方には行けなかった。しかしその間中、俺は決して目的を見失わなかった。俺は夜な夜なショルトの夢を見たもんだ。寝ている間に100回はあいつを殺したよ。しかしとうとう、三、四年前、俺たちはイギリスに着いた。ショルトが住んでいるところを見つけるのはわけなかった。そして俺は彼が財宝を金に替えたか、それともまだ持っているかを見極めようと調査を開始した。俺は協力してくれる友人を作った、 ―― 同じ穴に引きずり込みたくないから名前は言わんよ ―― 、そしてすぐにショルトはまだ宝石を持っていることが分かった。それから俺は色々な手段で奴を襲おうとした。しかし奴は非常にずる賢く、息子と給仕は別にしても、二人のボクサーをべったりと警備に当たらせていた」

「しかしある日、俺はショルトが死にかけているという情報を入手した。俺は、奴がこんな風に俺の手からすり抜けると考えると、たまらなくなり、すぐに庭に駆けつけた。そして窓から覗き込むと、両側に息子を置いてベッドに横になっているショルトが見えた。俺が睨みつけると、あいつは口をぽかんと開け、はっきり死んだ事が分かった。そうでなければ、俺は、いちかばちか三人相手にやりあっていたところだ。しかし俺はその夜、奴の部屋に忍び込み、俺たちの財宝をどこに隠したか、記録がないかと書類を漁った。しかし、何一つなかった。俺はこの上なく悲痛で荒れ狂った気持ちでそこを後にした。出て行く前に、俺は思いついた。もしシーク教徒の友人達に再会した時、憎むべき相手に何らかの印を残して置いたと言えば、きっと喜んでもらえるはずだと。だから俺は、図面に書いていたのと同じ四人の印を殴り書きし、奴の胸にピンで止めた。奴が盗みを働き、コケにした男達の痕跡一つもなく墓に埋められてたまるか」

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「俺たちはこの時、祭りなどでトンガを人食い人種として見世物にして生計を立てていた。トンガは生肉を食べ、戦争の舞を踊ったものだ。だから一日の仕事が終わったら、いつも帽子はペニー硬貨でいっぱいだった。ポンディシェリ・ロッジからは、逐一情報が入ってきていたが、数年間は息子たちが財宝を探しているという以外に何のニュースもなかった。しかし遂に長い間待ち望んでいた知らせがやって来た。財宝が見つかったのだ。それは一番上の階のバーソロミュー・ショルトの化学実験室にあった、俺はすぐにその場所を偵察に行った。しかしこの木の義足で、そこまで上がる方法を見つけられなかった。しかし天井の跳ね上げ戸のこと、そしてショルトの夕食の時刻を調べた。トンガの助けがあれば簡単に事を運べると思えた。俺はトンガの腰に長いロープを巻きつけて一緒に連れてきた。トンガは猫のように登ることが出来たので、すぐに屋根に上がり、部屋の中に入った。しかし悪い事に、バーソロミュー・ショルトはまだ部屋の中にいて、被害にあった。トンガは彼を殺して何か非常に手柄を立てたと思ったらしい。俺がロープをつたって上がった時、彼は孔雀のように誇り高く肩を張って歩いていたからだ。俺は、この血に飢えた小悪魔めが、と罵りながらロープの端を持って襲い掛かったが、この時、トンガは非常に驚いていた。俺は財宝の箱を入手してそれを地面に降ろした。その後、この宝石が遂に最も権利を持っている者へ戻ったことを示すため、テーブルの上に四人の印を残してから、ロープを滑って降りた。最後に、トンガはロープを引き上げて窓を閉め、入ったところから出て行った」

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「これ以上、話さねばならんことはないだろう。俺は、一人の船頭がスミスの船は速いと噂しているのを聞いた。それがオーロラ号だ。俺は逃走に使うのに便利な船かもしれんと思った。俺はスミスと契約し、もし無事に外洋船まで連れて行けば大金を払う約束をした。彼は間違いなく、何かおかしな事があると、感づいていたはずだ。しかしスミスは俺たちの秘密には踏み込んでこなかった。これは全て真実だ。そして俺が真実を話すのは、あんたらを楽しませるためではない、 ―― あんたらの仕打ちに、俺が恩義を感じる必要はないだろう ―― 、俺は、何も隠し立てをせず、世界全部に真実を知ってもらう事が、今出来る最高の弁護だと、確信しているからだ。その真実とは、俺がどれほどショルト少佐に酷い扱いを受けたかという事と、奴の息子の死は、俺に法的責任がないという事だ」