「彼は老いた伯父に幽霊犬をけしかけたのと同じ方法で、サー・ヘンリーを恐怖で死に追いやれるとは思えなかったはずだが」
「あの獣は獰猛で飢えていた。その外見で犠牲者が死ぬまでの恐怖を感じなくても、少なくとも抵抗しようとする意志を封じる事が出来ただろう」
「なるほど。一つだけ難問が残っている。もしステイプルトンが財産を相続することになれば、相続者だとは一言も言わず、偽名を使って屋敷のあんなに近くに住んでいたという事実をどう説明するつもりだったんだろう?疑われたり、警察に捜査されることなく、相続権を主張する方法があったのだろうか?」
「それはこの上ない難問だな。それを僕に解決しろと言うのは高望みだと思う。僕の捜査の範囲は過去と現在で、人間が将来何をするかというのは、答えにくい問題だ。ミセス・ステイプルトンは、彼が時々この問題について話すのを聞いたことがあるらしい。可能な方法は三つある。彼は南アメリカのイギリス当局に自分の身元を確認してもらい、イギリスに全く来ることなく、その地で財産を得ようとしたかもしれない。そうでなければ、ロンドンにいる必要がある短い期間中、念入りな変装をしたかもしれない。または、彼は再び共犯者を使ったかもしれない。証明書と書類を用意して、その共犯者を相続人に仕立て、その男の財産から一定の分け前をいただくという方法だ。あの男について判明していることから考えて、彼が困難を切り抜ける手段を何か見つけただろうということに、疑問の余地はない。さあ、ワトソン、何週間も激務が続いた。一晩くらい、もっと楽しいことを考えてもいいだろう。『ユグノー教徒*』のボックス席の切符がある。ド・レシュケ兄弟*を聴いたことがあるかな?じゃ、30分で用意してもらえるか?まずは、行きがけにマルチーニに寄って軽い夕食をしよう」