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私はそっと道を進んで発育不良の果樹園を取り囲んでいる低い壁の後ろにしゃがんだ。影の中に忍び込み、私はカーテンのない窓越しに中を真っ直ぐ見ることが出来る地点まで移動した。
部屋にはサー・ヘンリーとステイプルトンの二人しかいなかった。彼らは丸テーブルの両側に座り、私に横顔を見せていた。二人とも葉巻を吸っており、コーヒーとワインが前に置いてあった。ステイプルトンは熱心に話していたが準男爵は青ざめて上の空に見えた。多分、不吉な荒野を越えて一人で歩いて行くという考えが、彼の心にどんどん重くのしかかっていたのだろう。
私が偵察していると、ステイプルトンが立ち上がって部屋から出て行った。サー・ヘンリーはグラスにワインをもう一杯注ぐと、椅子にもたれかかって、葉巻を吸っていた。扉の軋みと砂利道を歩く乾いた靴の音が聞こえた。足音は私がしゃがんでいる壁の反対側にある道を進んだ。覗き込んでみると、博物学者が果樹園の一角にある納屋の扉の前で立ち止まるのが見えた。鍵が回され、彼は中に滑り込んだ。中から奇妙な足を引きずるような音が聞こえてきた。彼が中に居たのは1分かそこらだった。その後もう一度鍵を回す音が聞こえ、彼は私の前を横切ってもう一度家に入った。私は彼がサー・ヘンリーと再会したのを見届けると、静かにホームズたちが待っている所まで戻り、目撃したことを報告した。
「ワトソン、君は女性が居なかったと言うのか?」ホームズは私が報告を終えると言った。
「いない」
「じゃ、どこにいるんだろう?台所以外の部屋には明かりがない」
「どこにいるか分からんな」
グリンペン沼の上に出ていた白い濃い霧が、ゆっくりとこちらに流れてきて、それほど高くはないものの、厚くしっかりとした白い壁が、私たちの横から押し寄せてきた。月がその霧を照らし、巨大な氷原のように輝いて見えた。遠く離れた岩山の頂上は氷原に乗った石のようだった。ホームズは、霧の方を向き、ゆっくりとこちらに流れてくるのを見ると、イライラしてつぶやいた。
「こっちに来るぞ、ワトソン」
「深刻な問題なのか?」
「非常に深刻だ。 ―― 僕の計画を狂わせる要因と言えば、あれだけだ。もう、それほど時間がないぞ。すでに十時だ。この任務の成功、いやサー・ヘンリーの命さえ、あの霧が道の上にかかるまでに彼が出てくるかどうかにかかっている」
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