「私は一人身です」彼は言った。「そして社交的な性格で、沢山の友人と親交を暖めています。その中に、ケンジントンのアルベマール屋敷に住んでいるメルビルと言う引退した醸造業者の一家があります。数週間前にガルシアと言う青年と知り合ったのは、彼の食卓でした。彼は、私が聞いたところでは、スペインの系統で、大使館と何らかのつながりがあるということでした。彼は完璧な英語を話しました。彼の態度は楽しいものでした。そして生まれてこれまで見たことがないような男前でした」

「どういうわけかこの青年と私は非常に親しくなりました。彼は最初から私が気に入った様子で、出会ってから二日とたたずに、彼はリーまで私に会いに来ました。それから色々ありまして、ついには彼の家のウィステリア・ロッジで数日過ごすという誘いを受けました。家はイーシャーとオクスコットの間です。昨日の夜、私は約束通りにイーシャーに赴きました」

「私がそこに行く前に、彼は家族について話していました。彼は信頼できる使用人と暮らしていました。同郷の男です。その男が彼の面倒をすべて見ていました。この男は英語を話せ、彼のために家事をしていました。それから素晴らしいコックがいると言っていました。旅行中に知り合った白人とアメリカ先住民との混血の男で、素晴らしい夕食を用意できると言うことでした。彼がサリー州の真中にこんな一家がいるのは奇妙だろう、と言ったのを覚えています。それには私も同感でしたが、結果的には私が思っていたよりもはるかに奇妙だったのです」

「私はイーシャーから二マイルほど南側の家まで馬車で行きました。屋敷は非常に大きく、大通りから奥まった所に建っていました。曲がった馬車道は、背の高い常緑樹が土手のようになっていました。そこは古い荒れ果てた建物で、補修されずに大変な状態でした。染みが浮いて風雨に汚れた玄関の前、草が生い茂った馬車道の上で馬車が停まった時、私はほとんどよく知らない人物の家を訪問してよかったのかどうか疑問になりました。しかし、彼は自分で扉を開け、大変心のこもった様子で私を迎えてくれました。私は男の使用人に預けられました。憂鬱そうな浅黒い男でした。彼は私の鞄を持って先導して寝室に案内しました。どこもかしこも気がめいる場所でした。夕食は差し向かいでした。家の主人は楽しい雰囲気にしようと賢明でしたが、ずっと気が散っているような感じで、話はあいまいで支離滅裂でしたので何を言っているのかほとんど理解できませんでした。彼はずっとテーブルを指で叩き、爪を噛み、それ以外にも神経質でイライラしている様子が見えました。夕食は給仕も良くなく、料理も今ひとつでした。そして陰気な雰囲気の無口な使用人は、場を盛り上げる助けにはなりませんでした。はっきり申し上げて、夜の間中ずっとリーに戻れる口実を思いつかないかとばかり考えていました」

「一つ思い出したことがあります。これはあなた方お二人が調査する際に関係があるかもしれません。その時は何も思いませんでした。夕食の終わり近くになって、使用人が書いたものを手渡しました。家の主人はそれを読んだあと、それまでよりもいっそう気もそぞろで妙な様子になったのに気づきました。彼は会話をしようとする振りを一切やめて、絶え間なく葉巻を吹かしながら、座って自分一人の考えに沈んでいました。しかし彼は何を考えているのか一言も言いませんでした。十一時ごろ私は寝室に行く事ができてほっとしました。その後しばらくしてから、ガルシアが戸口から覗き込み、 ―― その時、部屋は真っ暗でした ―― 、私がベルを鳴らしたかと尋ねました。私は鳴らしていないと言いました。彼はもうすぐ一時になると言いながら、こんな遅い時刻に起こした事を謝りました。私はその後すぐ眠りに落ちて一晩中ぐっすりと寝ました」

「ここから私の話はとんでもない部分に入ります。私が起きた時、日が高く昇っていました。時計に目をやると、時刻は九時近くになっていました。私は八時に起こしてくれと念を押して頼んでいましたので、この不注意さには非常に驚きました。私は飛び起きてベルを鳴らして使用人を呼びました。返事はありませんでした。私は何度もベルを鳴らしましたが、それでも同じでした。それで、私はベルが故障しているという結論に達しました。私は非常に不機嫌になって、湯を頼むために手早く服を着ると、急いで下に降りて行きました。家に誰もいないと分かった時の私の驚きを想像していただけるでしょう。私はホールで大声を出しました。答えはありませんでした。私は走って部屋を一つずつ見ました。どこにも人気はありませんでした。前の夜、この家の主人は自分の寝室がどこか教えていましたので、私はその扉をノックしました。返事はありません。私はノブを回して入りました。部屋は空っぽでした。そしてベッドには寝た形跡がありませんでした。彼は他の人間と一緒にいなくなっていました。外国人の主人、外国人の下僕、外国人のコック、みんな夜のうちに消えていました、これが私のウィステリア・ロッジ滞在の結末です」