「君とちょっと話がしたくてね、マクマード君」老人は言った。躊躇するような話し方だったので、彼が微妙な立場にいることが分かった。「来てくれて嬉しいよ」
「なんで手紙に名前を書いておかなかったんだ?」
「注意をしなければならんのだ。こういう時期、どんな風にしっぺ返しが来るか分からん。誰を信じ誰を疑っていいかも分からん」
「支部の同志なら信用できるだろう」
「いや、いや、絶対ではない」モリスは激しい調子で叫んだ。「何かを言えば、いや、何かを考えただけで、マギンティのところに伝わるような気がする」
「いいか!」マクマードは厳格に言った。「知ってのとおり、支部長に信頼を誓ったのは、ほんの昨夜だ。俺に誓いを破れと言うのか?」
「そう思うなら」モリスは悲しげに言った。「ただ、ここに来てわしと会って面倒なことになれば申し訳ないと言えるだけだ。二人の市民がお互いに思うことを話すことが出来ないとなれば、事態はひどくなっている」
マクマードは相手を非常にじろじろと見ていたが、態度を少し軟化させた。「もちろん、自分の信念を言っただけだ」彼は言った。「知ってのとおり俺は新参者だ。そして全てに不慣れだ。俺から話す事はない、モリスさん。もし俺に何か言いたいことがあるなら、言ってくれ」
「それをマギンティ支部長に言うつもりか!」モリスは激しく言った。
「俺を見損なうなよ」マクマードは叫んだ。「俺としては支部に忠誠を尽くしているし、そう宣言もしている。しかし打ち明けられた秘密を他の者に言うほど情けない男じゃない。俺は誰にもしゃべらん。しかし協力や同情を得られるとは思わんで欲しい」
「わしはどちらも期待しとらんよ」モリスは言った。「わしは、これを話すことで、お前に自分の命を預けることになるかもしらん。しかし、仮にお前が悪人でも、 ―― とはいえわしには昨夜、お前が悪を気取っているように思えたが ―― 、まだそれほど深入りしていない。だからお前は他の奴らに比べて、良心が残っているはずだ。だからわしはお前と話したいと思ったんだ」
「で、何を言いたいんだ?」
「もし俺を売ったら、呪われるぞ!」
「そんな事はしないと言っただろう」
「じゃあお前に訊くが、シカゴで自由民団の組織に参加して、慈悲と忠節を誓った時、お前の心に、犯罪に手を染めることになるかもしれないという思いがよぎったか?」
「もし、あんたが支部の行為を犯罪と呼ぶなら ―― 」マクマードは答えた。
「犯罪だ!」モリスは叫んだ。彼の声は高ぶって震えていた。「あれを他の言葉で呼ぶなら、あまりにも無知というものだ。昨日の事件は犯罪じゃないのか?お前の父親くらいの男が、白髪から血を滴らせるところまで打たれて、あれが犯罪でなければ、他の何を犯罪と呼ぶ気だ?」
「闘争だという奴もいるな」マクマードは言った。「全体として二つの階級間の闘争だ。だからあらゆる戦闘に最善を尽くすんだ」
「じゃ、お前がシカゴで自由民団の組織に加入した時、そうなると考えていたのか?」
「いや、そうは言えんな」