コンプリート・シャーロック・ホームズ
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ダグラスとして知られていた男は、上着とシャツをまくりあげ、輪の中の三角の焼印を見せた。死体に押してあったのとそっくりだった。

「私が思いついたのはそれを見た時です。一目見ただけで全て明白に思えました。彼の背丈、髪、体格は、私自身とほぼ同じでした。顔は哀れにも見極めがつきません。私はこの服を持って下り、十五分で、バーカーと二人で奴に私のガウンを着せました。そして奴をあなた方が見た通りに横たえました。我々は奴の持ち物を一つの包みにくくり、そして部屋で見つかったただ一つの重量物を重しにして、窓から放り投げました。彼が私の死体の側に置くつもりだったカードは、奴自身の死体の側に置きました」

「私は、自分の指輪を彼の指に入れました。しかし結婚指輪の番になった時」彼は筋肉質の手を差し出した。「私がどうしようもなくなったのが、お分りでしょう。私は結婚して以来、こいつを外した事がありません。外すにはヤスリが必要だったはずです。どちらにしても、この指輪を手放す気になったかどうかは分かりませんが、もしその気になったとしても、不可能でした。ですから、この細部には目をつぶるしかありませんでした。一方、私はバンソウコウの切れ端を持って下り、自分がその時貼っていた場所に貼りました。あなたは、それほどの頭脳がありながら、これを見落としましたね、ホームズさん。もしあのバンソウコウをめくってみれば、その下に切り傷がないことが分かったでしょうに」

「これが事件の状況です。もし私がしばらくなりをひそめ、その後自分の『未亡人』と落ち合える所に逃げおおせれば、私たちは、やっと残りの人生を平穏に過ごせるチャンスを得る事が出来たでしょう。あの悪党達は私が生きている限り、安息の日を与えないでしょうが、もし彼らが新聞でボールドウィンが追跡者を殺したと読めば、彼らは追跡を終わらせたはずです。私はバーカーと妻に全てを詳しく説明する時間がありませんでしたが、二人は、私に協力してくれる程度には、事態を把握しました。私はこの建物の隠れ場所は全て知っていました。エイムズもです。しかし彼は、それをこの事件と関連付けることは思いつきませんでした。私は隠れ場所に隠れ、バーカーに後を託しました」

「彼がしたことはもうお分かりだと思います。彼は窓を開け、殺人犯の逃走経路が分かるように窓枠に足跡をつけました。それは無理な注文でした。しかし橋が上がっている以上、他には逃げ道がありませんでした。このように全ての細工が終わった後、彼はベルを鳴らして人を呼びました。それ以降に起きたことはご存知でしょう。では皆さん、後はお好きなようにして下さい。しかし私は真実を、完全な真実をお話しました。神に誓って本当です!ところで、私がどんな英国法を犯したかおうかがいできますか?」

沈黙を破ったのはシャーロックホームズだった。

「英国法はただの法律に過ぎません。あなたは死体を放置した以外の罪には問われないでしょう、ダグラスさん。しかし、この男はあなたの居場所を突き止め、あなたの家に侵入し、あなたを殺すために潜んでいたわけですが、いったいどうやってそんな事ができたのか、ご存知ですか?」

「それは全く分かりません」

ホームズは青ざめて深刻な顔になった。「残念ながら問題は終わっていません」彼は言った。「あなたは英国法よりも、アメリカの敵よりも、もっと危険な存在に気づくかもしれません。あなたの危険はこれからです、ダグラスさん。私の助言をお聞きになり、警戒を怠らないようにして下さい」

ここで、辛抱強い読者の皆さんにお願いがある。しばらくの間、バールストンのサセックス領主邸から遠くへ離れる事を許してほしい。そして、時間についても、私たちが事件を引き受け、色々な出来事を調査し、そして自称ジョン・ダグラスの奇妙な話で締めくくられることになった、この事件が起きた年をはるかに離れることにしたい。私は、約20年という時を遡り、西方約数千マイルの彼方へと向かう旅に読者をお連れしたい。そこで、私は読者に奇妙で恐ろしい話を提供するつもりだ。この話は、あまりにも奇妙で恐ろしいため、私が実際に起きた話だと言っても信じられないかもしれない。

私が一つの話が終わる前に別の話を割り込ませたと思わないで欲しい。読み進めればそうでないと分かるはずだ。そして私がその詳細な出来事を説明し終えた時、つまり読者がこの過去の謎を解決した時、私は読者と、もう一度ベーカー街の部屋でお会いすることになるだろう。そこでこの話は、他の素晴らしい事件と同様、結末を迎えることになるだろう。