コンプリート・シャーロック・ホームズ
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我々が外から見ていた輝きは、テーブルの上のオイルランプの光だった。この時、セシル・バーカーがそのランプを手にしており、私たちが部屋に入った時、こちらに向けて掲げた。その光は、彼の強靭で決意の固そうな綺麗に髭をそった顔と威圧的な目を照らしだしていた。

「これは一体どういうことですか?」彼は叫んだ。「何を探しているのですか?」

ホームズはあたりをさっと見回した。そして紐で縛られたびしょ濡れの包みに飛びついた。それは書き物机の下に放り込まれていた。

「これを探していたんです、バーカーさん、 ―― この包みです。あなたがたった今、堀の底から引き揚げたばかりのダンベルの重りがついた包みです」

バーカーは驚きを顔に浮かべてホームズを睨んだ。「いったいどうやってその事を知ったんだ?」彼は尋ねた。

「単に、僕がそこに投げ込んだだけだ」

「あなたが投げ込んだ!あなたが!」

「多分『投げ込み直した』と言うべきだったろうな」ホームズは言った。「覚えているだろう、マクドナルド警部、僕が無くなったダンベルをちょっと気にしていた事を。君もダンベルに注意をひかれたはずだが、他の仕事のプレッシャーもあり、そこから推理できたはずの事を考える時間がほとんどなかったようだな。水の近くにある重量物が消える。何かが水の中に沈んでいると想定しても、それほどおかしくはない。少なくとも試してみる価値のある考えだった。だから僕はエイムズの助けを借りて、この部屋に通してもらった。そしてワトソン博士の傘の柄で、僕は昨夜この包みを引き揚げて調べる事が出来た」

「しかし誰がそこに沈めたかを確認するのが、何よりも大事だった。明日堀の水を抜くと告知するという非常に見え透いた方法で、これは達成できた。もちろんこの通告を聞いたなら、誰がその包みを隠したにせよ、暗闇にまぎれて行動できるチャンスがあれば、必ずそれを引き揚げるはずだ。そのチャンスを生かしたのが誰か、少なくとも4人の目撃者がいる。だから、バーカーさん、あなたには事情を説明する責任がある」

シャーロックホームズは水の滴る包みをランプの横のテーブルに置き、縛っている紐を解いた。その中から彼はダンベルを取り出し、部屋の隅のもう片方の側に放り出した。次に彼は一組の靴を取り出して前に差し出した。「見てのとおり、アメリカ製だ」彼は爪先を指差して言った。それから、彼は長い殺傷能力のある、鞘に入ったナイフをテーブルの上に置いた。最後に彼は衣類の包みを解いた。中身は、下着一式、靴下、灰色のツイードのスーツ、短いベージュのコート、だった。

「服はありふれたものだ」ホームズは言った。「だが、このコートは別だ。これは面白い特徴がいっぱいある」彼はコートをそっと明かりに向けた。「見てのとおり、ここに、裏地を抜けて伸びる内ポケットがある。切り詰めた散弾銃が入る十分な空間を作るためだ。仕立て屋のラベルが首のところにある、 ―― 『ニール、服飾店、バーミッサ、アメリカ』。僕は今日、教区牧師の書斎で有益な午後を過ごした。そこで僕は、バーミッサというのは、繁栄した小さな町で、アメリカで最も有名な石炭と鉄の谷は何かと訊かれれば、真っ先に名前があがる場所の一つだという事実を知った。僕は覚えている、バーカーさん。あなたは炭鉱地区でダグラス氏の最初の妻と交友があった。そしてこれはきっとありえない想像ではないはずだ。死体の側のカードに書かれていた V. V. は、バーミッサ・バレイのことかもしれない。そして殺人の使者を送り出したこの谷こそ、話に聞いていた恐怖の谷かもしれない。ここまでは極めて明白だ。さあ、バーカーさん、そろそろ説明していただけませんか」

ホームズがこの説明をしている間のセシル・バーカーの表情の変化は見ものだった。怒り、驚き、狼狽、ためらい、これらが交互に押し寄せた。最後に彼はちょっととげとげしい皮肉に逃げ場を求めた。

「それだけ知っているなら、ホームズさん、あなたがもっと話せばいいでしょう」彼はあざけった。

「もちろん、もっと話をすることは出来たのですがね、バーカーさん。しかしあなたの体面のためにはご自分でおっしゃる方が良いのではないですか」

「そんな風にお考えですか?いいでしょう。私が言えることはこれだけです。もし秘密があるとすれば、それは私の秘密ではない。そして私はそれを言う立場ではない」

「あなたがそういう態度をとるなら、バーカーさん」警部は静かに言った。「我々は逮捕状が来て拘置できるまで、あなたを監視しておかねばなりません」

「やりたいようにすればいいでしょう」バーカーは反抗的に言った。

彼が関係していることに関しては、これ以上の進捗は望めなかった。この石のような表情を見ただけで、どんなに酷い拷問に掛けられても、意志に反した事を言いそうにはなかった。しかし、女性の声がして、この行き詰まりは打開された。半開きの扉の側に立って話を聞いていたダグラス夫人が、この時部屋に入ってきた。