コンプリート・シャーロック・ホームズ
ホーム長編緋色の研究四つの署名バスカヴィル家の犬恐怖の谷短編シャーロック・ホームズの冒険シャーロック・ホームズの回想シャーロック・ホームズの帰還最後の挨拶 シャーロック・ホームズの事件簿

「美しい女性です、 ―― 非常に美しい女性ですね」マクドナルドは彼女が扉を閉めた後、感慨深げに言った。「道理でバーカーという男がしょっちゅうここに出入りするはずだ。彼も女性を引きつける魅力のある男だ。バーカーは死んだ夫が嫉妬していたと認めた。おそらく何が嫉妬を招いたか、彼自身が一番よく知っているだろう。それからあの結婚指輪だ。あれは見逃せん。死体の指から結婚指輪をもぎ取る男・・・・・、どう思いますか、ホームズさん?」

ホームズは手の上に顎を置いて座ったまま、考え込んでいた。ここで彼は立ち上がりベルを鳴らした。「エイムズ」彼は執事が入ってきた時、言った。「セシル・バーカーさんは今どこだ?」

「見てきます」

彼はすぐに戻ってきてバーカーが庭にいると言った。

「エイムズ、君が昨夜書斎でバーカーさんと会った時、彼が何を履いていたか、覚えているか?」

「ええ、ホームズさん。寝室の室内履きです。バーカーさんが警察を呼びに行く時、私が彼のブーツを持って行きました」

「その室内履きは今どこにある?」

「まだ、ホールの椅子の下です」

「結構だ、エイムズ。言うまでもないが、どの足跡がバーカーさんのもので、どの足跡が侵入者のものか、見極めるのが非常に重要なのだ」

「はい。確か、バーカーさんの室内履きは血で汚れていたと思います。もちろん私のもですが」

「部屋の状況を考えれば、当然だな。結構だ、エイムズ。用があったら呼ぶよ」

数分後、私たちは書斎に行った。ホームズはホールから室内履きを持ってきていた。エイムズが言ったように、靴の裏は両方とも血で黒くなっていた。

「奇妙だ!」ホームズは窓明かりの中に立って、靴を入念に調べている時、こうつぶやいた。「まったく、実に奇妙だ!」

illustration

彼は、独特の猫のような素早さでかがみこむと、窓枠の血の跡の上に片方の室内履きを当てた。それはぴたりと一致した。彼は何も言わず、私たちに微笑みかけた。

警部の表情が興奮に包まれた。故郷の訛が手すりを叩く杖のように湧き出した。

「いやはや」彼は叫んだ。「間違いない!バーカーは自分でこの跡をつけたんだ。これは他の足跡よりもかなり幅広だ。あなたはたしか、横扁平足とかおっしゃっていたように記憶しています。これで真相が分かった。しかし目的は何です、ホームズさん、 ―― 目的は何なのでしょう?」

「そうだな。目的は何か?」ホームズは考え深げに繰り返した。

ホワイト・メイソンは職業的な満足感を感じ、くすくす笑って太い手を擦りあわした。「大変な事件と言ったでしょう!」彼は叫んだ。「これは本当に大変な事件だ!」