唇のねじれた男 8 | 唇のねじれた男 9 | 唇のねじれた男 10 |
我々がサリー州の通りを過ぎる頃、街では一番早起きの住民が窓から眠そうな姿を現し始めたところだった。ウォータールー・ブリッジ・ロードを過ぎ、我々は河を越えた。そしてウィリントン街を駆け、右に鋭く曲がり、そしてボウ街に来た。シャーロックホームズは警察によく知られていたので、玄関にいた二人の巡査は敬礼した。一人が馬の頭を押さえ、もう一人が我々を招き入れた。
「だれが当番だね?」ホームズは訊いた。
「ブラッドストリート警部です」
「あ、ブラッドストリート、調子はどうだ?」背の高い太った警察官が、ひさしの着いた帽子と飾りボタンがついた上着を着て、石敷の通路をやって来た。「ちょっと内密の話しをしたいんだが、ブラッドストリート」
「結構ですよ、ホームズさん。ここが私の部屋ですから、どうぞ」
そこは小さな事務所のような部屋だった。大きな台帳が机の上にあり、壁に電話が取り付けられていた。警部は机の前の椅子に座った。
「何の御用ですか、ホームズさん?」
「あの乞食の件で来たのだ。リーのネビル・セント・クレア氏の失踪に関係したという嫌疑をかけられている、ブーンだ」
「はい。彼はここに連れてこられ、まだ尋問があるので再拘留中です」
「そう聞いている。ここにいるんだな?」
「独房に入れています」
「静かにしているかね?」
「まあ、全然手間をかけさせたりはしてませんね。しかしあいつは不潔な悪党ですよ」
「不潔?」
「そうです。警察では、手を洗わすだけしかできないのであいつの顔は鋳掛屋のように真っ黒です。もしこの一件が解決したら、獄中で定期的に風呂に入ることになるでしょう。あなたもあいつを見たら、私と同じように奴にはそれが必要だと思うんじゃないでしょうか」
「是非見て見たいもんだな」
「本当に?簡単なことですよ。こちらへどうぞ。鞄はここに置いていてもいいですよ」
「いや、持っていこう」
「結構です。どうぞ、こちらです」彼は廊下を先導した。鉄格子の扉を開け、曲がりくねった階段を降り、両側に扉が一列に並んだ漆喰の廊下まで我々を連れて来た。
「右の三番目が奴の部屋です」警部は言った。「いました!」警部は静かにドアの上部にある板を持ち上げ、中を覗き込んだ。
「寝ています」警部は言った。「よく見えますよ」
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