哀れにもあのモルモン教徒の予測は的中した。父親の恐ろしい死のせいか、または彼女が無理強いされた忌まわしい結婚のためかは不明だが、悲運のルーシーはやせ衰え、二度と起き上がることなく、一月と経たずに死んだ。彼女の大酒飲みの夫は、ジョン・フェリアーの財産が主な目的で結婚していたので、この死別にほとんど嘆かなかった。しかし他の妻たちは嘆き悲しみ、モルモン教の習慣にしたがって埋葬の前に通夜を開いた。妻たちが朝早い時間に棺を取り囲んでいたその時、 ―― 女たちは言葉も出ないほど恐れ、驚いたが ―― 、扉がさっと開かれると、ボロボロの服を着た、凶暴な顔つきの日に焼けた男が、部屋の中につかつかと入ってきた。男は、すくみあがった女性たちには目もくれず、無言で、かつてルーシー・フェリアーの汚れなき魂を閉じ込めていた物言わぬ白い体に歩み寄った。男は彼女にかがみこんで、冷たい額にうやうやしく唇を押し当て、それから、手をさっと持ち上げ、指から結婚指輪を抜き取った。「こんなものをつけて埋葬させるか」彼は荒々しい声で怒鳴った。そして女たちが叫び声を上げる前に、階段を飛び降りて姿を消した。あまりにも奇妙で素早い出来事だったので、もし花嫁の印である金の指輪が消え失せていたという動かしがたい事実がなかったら、目撃者は自分たちが信じることも、他人に信じさせることも出来なかったかもしれない。
何ヶ月もの間、ジェファーソン・ホープは奇妙な荒れた生活を送り、彼に取り付いた激しい復讐の欲求を心の中で育てながら、山の中にいた。街では噂がたった。郊外で奇妙な人影が歩き回っているのを見た、寂しい山あいの渓谷にも出没すると。ある時、弾丸が風を切ってスタンガーソンの窓に飛び込み、彼から一フィートと離れていない壁に当たってひしゃげた。別の時、ドレバーが崖の下を通っていると、巨石が崩れて倒れ掛かってきた。彼はうつぶせになって、やっとのことで恐ろしい死を免れた。二人の若いモルモン教徒が命を狙われる理由を理解するのに、そう長くはかからなかった。そして彼らの敵を捕まえるか殺そうとして、何度も山を捜索した。しかしいつも無駄骨に終わった。その後、彼らは用心して、一人で外出したり、夜更けに外に出ないようにし、家を警護した。時がたつと、敵対者の噂がなくなってきたため、この警戒を緩める事が出来た。そして二人は、男の執念は時と共に冷めたのだと考えた。
まったくそうではなかった。それはむしろ増大していた。狩人は堅く屈しない性格だった。そして、復讐をするという考えは、何物にも勝って完全に心を専有しており、他の感情が入る余地は全くなかった。しかし、彼は何よりも実務的な人間だった。彼はすぐに、鉄の体をもってしても、自分が課している絶え間ない緊張には耐えられないことに気づいた。野宿と栄養不足によって彼は消耗し始めていた。もし山の中で犬のように死んだら、復讐はどうなる?しかし、もしこれが続ければそのような死は間違いなく起きる。彼はそれを敵を利するものだと感じた。そのため、彼は不本意ながら、ネバダ鉱山に戻って、健康を回復し、自分の目的を追求するのに十分な金を蓄えようとした。
彼は長くても一年たてば戻るつもりだった。しかし予期せぬ事態が次々に起き*彼は5年近く鉱山を離れる事が出来なかった。しかしその期間が過ぎても、不正の記憶と復讐の渇望は、彼がジョン・フェリアーの墓の側に立っていたあの永遠に忘れられない夜と全く変わりがなかった。彼は変装し、偽名でソルトレイクシティに戻った。彼が正義と信じるものを獲得するなら、自分の命がどうなろうとも構わなかった。そこで彼は悪い知らせが待ち受けていたのを知った。数ヶ月前、選ばれし民の間で分裂が起きていた。教会の若い構成員の一部が、長老達の権威に反旗を翻し、一定数の不平分子が離脱するという結果になっていた。彼らはユタを去り異教徒になった。この中にドレバーとスタンガーソンがいた。そして彼らがどこに行ったか誰も知らなかった。噂では、ドレバーは財産の大部分を金に替えることに成功し、かなりの大金を手にして去っていた。一方、同行者のスタンガーソンは、どちらかと言えば、金に不自由していた。しかし彼らの消息については手がかりは全くなかった。