ホームズがこう叫んだのは、扉がものすごい勢いで裏返り、ドアのあった場所をふさぐように巨大な男が立っていたからだ。知識階級とも労働階級とも、見分けのつかない奇妙な服装で、黒のシルクハットに長いフロックコート、高いゲートルをはき、握った狩猟鞭をブラブラ振っている。戸口の幅いっぱいもありそうな体で部屋に踏み込むとき、あまりの巨体に帽子が桟をこすった。黒く焼け、無数のシワに刻まれた大きな顔が、邪念に満ちて、ホームズと私を見比べるとき、くぼんだ黄色い目と、鋭く高い鼻が、狩りに慣れた凶暴なワシに見えた。
「どっちがホームズだ?」この侵入者が訊いた。
「僕ですが、どちら様でしょう?」ホームズは静かに言った。
「わしはストーク・モランのグリムスビー・ロイロットだ」
「なるほど、ドクター」ホームズは穏やかに言った。「お掛けください」
「誰が座るか。わしの娘がここに来ていた。つけたのだ。娘は何を言った?」
「この時期にしてはちょっと寒いですな」ホームズは言った。
「娘は何を言った?」老人は怒り狂って叫んだ。
「しかしクロッカスの出来は良さそうだという話ですな」ホームズは落ち着いて続けた。
「ハ!わしを愚弄する気だな?」訪問者は一歩前に出て狩猟用の鞭を振りながら言った。「わしはお前を知っておる。この悪党が!前に聞いたことがある。ホームズ、このお節介野郎」
ホームズは微笑んだ。
「ホームズ、このでしゃばり野郎!」
ホームズはさらに微笑んだ。
「ホームズ、このロンドン警視庁の下っ端が!」
ホームズは楽しそうに含み笑いをした。「あなたとお話するのは本当に楽しい」ホームズは言った。「出て行くときには扉を閉めてもらえますか、隙間風がひどいので」
「言うことを言ったら出て行く。わしのやることに首をつっこむな。娘がここに来たことは分かっている。つけたからな!わしに関わったらひどい目にあうぞ、これを見ろ」彼はさっと歩み出ると、火掻き棒をつかみ、日に焼けた太い手でぐにゃりと曲げた。
「わしの手の威力を見たか。つかまれんように気をつけろ」彼はうなるように言った。そして曲がった火掻き棒を暖炉に投げ捨てると、大股で部屋を出て行った。
「なかなか楽しそうな人物だな」ホームズは笑いながら言った。「僕は無駄にでかい体じゃないが、あんなにあせって帰らなければ、あいつのへなちょこの腕より、もうちょっとまともな僕の腕力を見せてやったのに」話しながらホームズは鋼鉄の火掻き棒を取り上げ、グッと力を込めて、真っ直ぐに戻した。
「無礼にも僕を警察と間違えるとはな!この出来事で調査はますます面白くなったな。それはそうと、いまは、あの女性が危害を加えられないことを祈るしかない。あんな獣につけられるとは実にまずいことをした。しかしワトソン、まずは朝食を頼もう。その後、登記所に行くつもりだ。そこでこの件についての情報を得たいと思っている」