「シルバー・ブレイズは」ホームズは言った。「ソモミーの血統で、著名な祖先馬と同様、素晴らしい成績を残している。今五歳馬で、幸運なオーナー、ロス大佐は次々に賞金を手にしている。今回の不幸な事態が起こるまでウェセックス・カップの本命馬で、掛率は三対一だった。これほどの低い掛率でも、競馬ファンにとって、シルバー・ブレイズはこれまでずっと一番人気だった。しかも、その期待はただの一度も裏切られなかった。だからこのオッズにもかかわらず、シルバー・ブレイズには莫大な額の金が掛けられている。したがって来週の火曜日、競馬が始まる瞬間、なんとしてもシルバー・ブレイズの姿を競馬場から消したいと願っている人間が大勢いるのは明らかだ」
「当然だが、大佐の調教厩舎が設置されているキングズ・パイランドの方でも、そういう危険についてはきちんと認識しており、シルバー・ブレイズを守るためにあらゆる予防策がとられていた。ジョン・ストレーカーは、元々ロス大佐の馬に乗っていた騎手だが、体重が増えすぎて調教師となった人物だ。彼は騎手として五年間、その後は調教師として七年間、大佐に仕えた。ジョン・ストレーカーはずっと熱心で真面目な使用人だった。彼の下には、三人の馬丁がいた。小さな施設なので、馬は全部で四頭しかいなかった。この三人の馬丁のうち一人が、他の二人が屋根裏で寝ている間、毎晩厩舎で寝ずの番をする。三人とも、素晴らしい性格の人物だ。ジョン・ストレーカーは結婚しており、厩舎から200ヤードばかり離れた小さな住宅に住んでいる。子供はおらず、女中が一人いて何不自由なく暮らしている。この辺りは田舎で、住人が非常に少ない。しかし北に半マイルほど行くと、タヴィストックの建築業者が建てた小さな住宅の集落がある。それは、綺麗なダートムーアの空気を味わいたい病弱な人などのための施設だ。タヴィストックは原野を横切って二マイル西にあり、同じく二マイル離れたところに、もっと大きなメイプルトンの訓練設備がある。これはバックウォーター卿の所有で、サイラス・ブラウンによって管理されている。これら以外の原野は、どの方向に行っても完全な荒地で、定住していないジプシーが少しいるだけだ。これが惨事が発生した月曜の夜の状況だ」
「その夜、馬はいつもどおり運動して水を飲み、夜九時に厩舎の鍵が掛けられた。馬丁の二人は調教師の家に行き、台所で夕食を食べた。三人目のネッド・ハンターは残って番をしていた。九時数分過ぎにメイドのエディス・バクスターがネッド・ハンターの夕食を厩舎に運んできた。献立はマトンのカレー煮だった。エディス・バクスターは飲み物は持参しなかった。厩舎には蛇口があり、仕事中の馬丁はこれ以外のものを飲まない決まりだった。エディス・バクスターはランタンを持って出た。外は非常に暗く、道は原野を横切っていたからだ」
「エディス・バクスターが厩舎の30ヤード手前にまで来た時、一人の男が闇の中から現れ、彼女を呼び止めた。その人物がランタンに照らされた光の輪の中に踏み入ると、灰色のツイードを着て布製の帽子を被った、紳士風のいでたちの男の姿が見えた。彼はゲートルを巻き、握りがついた太いステッキを持っていた。しかしエディス・バクスターの印象に一番残ったのは、非常に青白い顔とイライラした身ぶりだった。年齢は少なくとも三十歳過ぎに見えた」