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彼が家に近づいていくと、扉が開き、6歳くらいの小さな巻き毛の子供が、走って出てきた。小太りの赤ら顔の女が大きなスポンジを手に追いかけてきた。
「戻って洗わせなさい、ジャック」彼女は叫んだ。「帰っておいで。しようのない子だ。お父さんが帰ってきて、そんなお前を見たら、黙ってないよ」
「可愛い子だね!」ホームズは心にもない事を言った。「頬がばら色の腕白坊やだねえ、さあ、ジャック、何か欲しいものがあるかな?」
子供は一瞬考え込んだ。
「一シリング欲しい」彼は言った。
「他にもっと欲しいものはないか?」
「二シリングがもっといい」この天才児はちょっと考えてから答えた。
「じゃ、あげるよ!ほら、キャッチしろ!いい子ですね、スミスさん」
「ありがとうございます。あの子はあんなでね。ませてて。私にはほとんど手に負えません。特にうちの人が何日も家を空けている時は」
「ご主人はお留守ですか?」ホームズは残念そうな声で言った。「それは残念ですねえ。私はスミスさんとお話がしたかったのですが」
「主人は昨日の朝から出て行ったきりです。実を言うと、ちょっと不安になり始めているんです。しかし、船のことでしたら、多分私が代わりに伺えると思いますよ」
「蒸気船を借りたいと思っていたんですが」
「まあ、どうしましょう。主人はその蒸気船に乗って出て行ったんです。それで不思議に思っているんですよ。船にはウールウィッチに行って帰ってくるくらいの石炭しか、積んでいないのは分かっています。もしはしけで出て行ったのなら、遠いところではグレーブゼンドまで何度も仕事で行っていますから、何も心配はないですし、もし仕事が多ければどこかに泊まったかもしれません。しかし石炭なしの蒸気船では、役に立ちません」
「ご主人は河を下ったところの埠頭で買ったかもしれませんよ」
「そうかもしれません。しかし主人がそんなことをするとは思えません。何度も、何度も臨時に買った袋の請求金額のことで主人が声を荒げているのを聞いたことがあります。それに、私は醜い顔で外国風の話し方をするあの木の義足の男が嫌いなんです。何の用があって、この辺をうろついているんでしょう?」
「木の義足の男?」ホームズは軽く驚いたように言った。
「そうです。黒い、猿のような顔の男で、うちの主人を何度も訪ねてきました。昨日の夜、主人を起こしたのはあの人です。その上、主人はあの男が来る事を知っていたようです。蒸気船に石炭をくべていましたからね。実を言うと、胸騒ぎがしています」
「しかしスミスさん」ホームズは肩をすぼめながら言った。「なんでもない事をご心配されているんじゃないですか。昨夜来たのが、木の義足の男だとは限りませんよ。なぜそんなに確信を持てるのか、よく理解できませんね」
「声です。私はあの男の太くて濁ったような声を知っています。多分三時頃だと思いますが、あの男が窓を叩きました。『起きろ、相棒』彼はこう言いました。『見張りを代わる時間だ』主人はジムを起こしました、 ―― 長男です ―― 、それから私に何も言わずに出て行きました。木の義足が石の上でカツカツ言う音を聞くことが出来ました」
「木の義足の男は一人でしたか?」
「よく分かりませんが、そのはずです。他の足音はしませんでした」
「すみません、スミスさん、蒸気船を借りたいので、いい知らせを聞きたいですね、・・・・確か・・・なんて船でしたっけ?」
「オーロラ号です」
「ああ!古い、緑に黄色い線の船で、非常に幅が広くなかったですか?」
「いいえ、全然違いますよ。あの船はこの河でどれよりもスマートです。塗装は塗りたてで、黒に赤の二本線です」
「ありがとう。ご主人からすぐに連絡があればいいですね。私は河を下る予定ですから、もしオーロラ号らしいものを見たら、奥さんが心配していたと知らせましょう。煙突は黒とおっしゃいましたね?」
「いいえ。黒に白線が一本入っています」
「ああ、そうでした。黒いのは船体でしたね。さようなら、スミスさん。船頭が乗ったはしけがあるな、ワトソン。あれに乗って河を渡ろう」
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